「『会社四季報』を持ち歩くのが面倒になった」
旧知のシニア投資家(70代)から聞いた話である。企業や業界の情報収集のために図書館に出向く際には、保有銘柄を複写したものを持っていくそうだ。
なるほど近年の『会社四季報』(東洋経済新報社)は鞄に入れて持ち歩くには、いささか抵抗を覚える。試みに古い「四季報」を取り出してみて、そのコンパクトさに驚いた。1986年新春号の厚さは3センチしかない。これに対して直近は4.5センチ。ちなみにバブル全盛期の1989年秋季号でも3.5センチだった。
上場企業の代表的な辞書である「四季報」の膨張は、掲載する社数、上場企業の増加を示している。一見するとそれだけ日本経済が成長を遂げた、また産業、企業が発展、拡充したように映るが、慶事とばかりはいえないようだ。
昨年末から市場の話題をさらっている東京証券取引所の制度変更、すなわち東証1部上場企業の絞り込み、新基準創設の検討は、上場企業数の増加が必ずしも内容の充実にはつながっておらず、むしろ玉石混交に陥っていることを示している。ここに来て報道は一巡しているが、東証を運営する日本取引所グループに、現状及び今後の方針について尋ねてみた。
「制度変更のタイムスケジュールは決まっていない。現在は方向性を検討している段階であり、方向性が見えてきたところで具体的にどうしていくかの段階になる。市場に大きな影響を及ぼすことなので、オープンな場で論議を深めて慎重に進めていく。報道が若干先行しているようだが、突然制度が変更されるようなことはあり得ない」(上場部企画グループ)
要するに、まだ外堀を埋める準備をしているあたりか。コメントの中にもあるように、主要な指標に深く関係する制度変更が、市場に大きな影響を及ぼすことは、日経新聞による225採用銘柄の入れ替えが誘発した暴落からも明らかだ。拙速を避けて、すり足で事を進めるのは妥当なところだろう。
だが、上場企業や証券会社など身内の事情を優先して、あまりにも緩い基準で妥協するのならば、現在でも西日を浴びつつある東証ブランドを一層低下させることになる。