マクドナルド店舗でデリバリー配達員とみられる男性が店員に激怒し、店員が冷静に「帰っていい」と告げ無視し、その後も男性が店員に悪態をつき続ける動画がSNS上で拡散され議論を呼んでいる。デリバリーサービスで注文された商品は、出来上がるとレジカウンター上部のモニターに番号が表示される運用になっている。動画内では、店員が男性に対し「25分たったら廃棄になるから。番号お呼びしました。番号確認しましたよね?」と説明すると、男性は「『まだや』っていうから待ってんねん」と怒り、目の前に置かれていた商品をカウンターに叩きつけ。店員から「帰っていい」と言われると「『帰ってええ』ちゃうわ、おい、こら待てやお前、おい!」とさらに激高しているが、いったい何が原因でトラブルが生じたのか。また、「カスハラ」「モンスター客」という言葉が定着した昨今、この店員の毅然とした対応をどう評価すべきなのか。業界関係者の見解を交え追ってみたい。
Uber Eatsや出前館、Woltをはじめとするデリバリーサービスが普及し、ファストフードチェーン各社も軒並み同サービス経由での注文に対応。全国に約3000店舗を展開するマクドナルドの店舗前に数多くの「注文待ち」をする配達員が群がる光景も珍しくなくなった。
デリバリーサービスにおける注文から配達員による配達までの仕組みはどうなっているのか。たとえばUber Eatsの場合、お客が店舗と商品を選択して注文し、配達員が配達依頼を受諾し一定の条件が揃うと、店舗は調理を開始。商品が出来上がるとレジカウンター上部のモニターの「お呼出中の番号」に番号が表示され、配達員は商品を受け取り配達するという流れだ。
今回のトラブルが起きた原因について、外食チェーン関係者は次のように推察する。
「商品が出来上がってモニターに表示された後、一定時間が経過すると番号が消えて商品が廃棄される運用になっており、この配達員の男性の店舗到着が遅れたのか、もしくは番号表示に気が付かないうちに表示が消されたという可能性が考えられる。配達員が店舗に到着する前に調理が始まり、なんらかの理由で配達員の到着が遅れれば、このような事態は起こり得るが、口論になるまでの間に配達員と店員のやりとりで誤解や行き違いが生じ、配達員が『調理中なので待って』と言われたと認識してしまっていた可能性もある。不測の事態や誤解が二重三重に重なってしまったことでトラブルに発展したのでは」
一定時間経過後に店側が注文をキャンセルするのはやむを得ない
また、客がデリバリーではなく持ち帰りや店内飲食で「モバイルオーダー」を使って注文する際の方法はこうだ。スマホにダウンロードした公式アプリで店舗と商品を選択後、持ち帰りか店内飲食かを選択。この際、持ち帰りの場合は店内カウンター、駐車場、ドライブスルーのいずれか、店内飲食の場合はテーブルに商品を届けてもらうかカウンター受け取りかのいずれかを選ぶ。店舗に到着したら「受け取りに進む」ボタンを押して、画面に表示された注文番号が店内のモニターに表示されたら、カウンターに進んで商品を受け取るという流れだ。支払い手段としてはPayPay、d払い、楽天ペイなど各種QR決済サービスに加えクレジットカードなどが可能であり、現金支払いは対応していない。
注意点としては、店舗到着時に「受け取りに進む」ボタンを押すという流れになっている点だ。モニターの「お呼出中の番号」に番号が表示された時点で注文者がカウンター前にいないと、注文がキャンセルされる場合がある旨がユーザには通知される。
「システムの運用上、調理が完了した後に受け取られないまま仕掛中になっている商品がたまってくると支障が生じる。もちろん時間がたつと商品が傷んで食中毒リスクも高まるので、一定の時間が経過したらキャンセル処理して廃棄するのは避けられない」(外食チェーン関係者)
店員も感情を持った人間
今回の動画では店員の冷静かつ毅然とした対応も注目されている。外食チェーン関係者はいう。
「どのような経緯があったにせよ、この男性の言動は明らかに問題があり、また、他のお客向けの商品をカウンターに叩きつけて提供できなくしており、業務妨害にあたる。他のお客にも迷惑がかかったり店舗全体の業務オペレーションが滞る可能性もあり、毅然とした対応をしてしかるべきだ。店員も感情を持った人間なので、このような暴力的な言葉を投げかけられればキレてしまっても仕方ないところだが、冷静に対応できている点は評価できる」
そこで、自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏に今回のトラブルの背景や店側の対応について解説してもらった。
冷静な対応ができると超一流の接客
店舗側とデリバリー配達員との間のトラブルは頻繁ではないものの、稀に発生することがあります。トラブルの原因は、今回の動画のように配達員が遅れてくるケースや、商品のクオリティ低下のケースがあります。配達員が遅れた場合、商品が冷めるだけでなく、商品が放置され衛生上の問題が生じたり、店舗側にとっては管理の時間が長くなり「まだ来ないのか」とストレスになります。また、配達途中で型崩れを起こし、お客さんが店舗にクレームを言ってくることもあり、その際は店舗と配達員の間でのトラブルに発展します。
今回の動画のケースにおいて、配達員の言葉遣いや商品を乱暴に扱う姿を見た人は、心象的に配達員の態度に問題があるように感じるでしょう。店員の対応は「毅然とした対応」として評価されそうですが、普段接客について現場指導をしている私としては、もう少し丁寧な対応でも良かったのではと感じます。
配達員の言葉や態度はカスハラに当たる威圧的なものなので「毅然とした対応」はいいと思います。ただし、売り言葉に買い言葉のような同レベルの対応に近くなってしまうと、より大きなトラブルを招く可能性が生まれます。配達員が逆上してどのような行動に出るかわかりませんし、周りから見ていてもあまりスマートには見えません。途中で「帰っていい」と打ち切ってしまうよりも、冷静な対応で最後まで説明することができたら完璧だったのではないでしょうか。店員も普通の人間ですから、なかなか難しいこともわかりますし、動画に出てくる配達員のような輩系の人間に言って聞かせることは、かなり難しいこともわかりますが、そこをぐっとこらえて冷静な対応ができると超一流の接客といえると思います。
昨今ではカスハラという言葉が定着したように、モンスター客へは毅然とした対応を取るべきとの風潮が広がりつつあり、原則はそれでいいと思います。度が過ぎた横柄な態度をとる勘違いしたお客さんは、お店側が本来求めるお客さんではないですし、お店側にもお客さんを選ぶ権利はあります。お店からしたら「買ってもらう」「食べてもらう」ですが、お客さんも「売ってもらう」「食べさせてもらう」とお互いに感謝したほうが気持ちいいものです。働くにしても「働いてもらう」「働かせもらう」関係のほうが気持ちいい職場になるのと同じです。
ただし、カスハラという言葉が定着してきたことをいいことに店側が強気に出ることは勘違いであり、そのような空気感はお店のサービス力や顧客満足度を下げ、場合によってはSNSなどで叩かれ痛いしっぺ返しを受けることもあります。最初から強気な態度ではなく、相手のリクエストをできるだけ聞いてあげよう、できることならなんとかしてあげようという「お互いさま」の気持ちは、いつの時代も商売をする上で大切ではないでしょうか。
(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)