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小田急線「初めての経験」、地震で深夜に山中で「乗客は現地解散」複雑な事情

文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
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小田急線(「Wikipedia」より/MaedaAkihiko)

 8月9日夜8時前に神奈川県西部を震源とする地震が起き、多くの交通機関に影響が出た。運転を見合わせた小田急線の小田原線の渋沢駅~新松田駅間では、乗務員の指示で乗客が降ろされ、誘導に従い線路・鉄橋上を歩行して深夜に山中の踏切に着くと、そこからは自力で帰宅するように言われて「現地解散」となったというSNS上への投稿が注目されている。乗客が乗務員に交渉した結果、電車内での待機を許されたとのことだが、指示に従って徒歩で自力で帰宅する乗客もいたという。小田急電鉄はなぜそのような対応をとったのか。同社の見解を交えて追ってみたい。

 9日に起きた地震では、神奈川県で震度5弱、東京都・埼玉県・山梨県で震度4、静岡県・長野県で震度3が観測された。広い範囲で交通機関への影響が発生し、東海道新幹線(品川―静岡間)、小田急電鉄各線(小田原線・多摩線・江ノ島線)などで一時、運転の見合わせが起きたほか、多くの路線で緊急停車が発生しダイヤが乱れ、帰宅途中の人々が足止めされた。

 小田急電鉄の上記3路線は一時、全線が運転見合わせとなった後に順次再開したが、小田原線の海老名駅~小田原駅間は深夜まで運転見合わせが続いた。今回注目されているのが、それにより渋沢駅~新松田駅間で緊急停車した車両で取られた小田急電鉄による対応だ。乗客とみられる人々がSNS上に投稿している内容によれば、以下の対応だったという。

・夜8時過ぎ、安全確認が取れないため運転再開の見込みが立たず、運転再開まで時間がかかる可能性がある旨の車内アナウンスが流れる
・乗客が乗務員の誘導に従い線路に降り、暗闇の中、徒歩で近くの踏切まで歩行
・夜10時頃に山の中の踏切に着くと、そこからは自力で帰宅するように乗務員から言われ「現地解散」となる

 その後、複数の乗客が乗務員に交渉した結果、車内での待機が許されたが、一部の乗客は自力で帰宅するため徒歩で出発。結局、状況が打開されたのは午前3時すぎとなり、小田急電鉄の社員が来て、誘導に従い後続の車両まで徒歩で移動し乗車。その車両が運行して午前4時頃に小田原駅に到着したという。

事前の沿線の自治体との協議の必要性

 このような対応は一般的なのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏はいう。

「一般的な対応と思われます。小田急電鉄の場合、大都市近郊の鉄道ということもあって駅と駅との間の距離が短く、また沿線に人家が多いこともあり、列車が長時間立ち往生して乗客を降車のうえ避難誘導する際には最寄り駅または最寄りの踏切という規則を定めており、こちらも妥当と考えられます。もちろん、乗客全員を駅まで案内したうえで代替の交通機関が用意されていればよいのでしょうが、大地震のような大規模な災害では他の交通機関も止まっている可能性が高いので、難しいといえます。そもそも大都市の鉄道は乗客が多いので、とても対応できないという交通システム上の問題もあります。そこで、駅に滞留できるようにするか、または沿線の自治体の協力を仰いで乗客が避難場所で待機できるようにすべきであったでしょう」

 なぜ小田急電鉄はこのような対応を取ったのか。

「今回立ち往生した小田原線の渋沢駅~新松田駅間は小田急電鉄の駅間距離で最も長く6.2kmあり、列車は両駅の中間付近に停止した結果、最寄りの踏切も両駅からのほぼ中間となる渋沢8号踏切でした。小田急電鉄の回答(後述参照)のとおり、この地理的な条件が車内での待機という特例を生み出したと考えます。渋沢8号踏切は新松田駅から徒歩40分ほどのところで、山あいの夜間に歩くとなるととても大変です。歩ける人は別として、歩行が難しい人には行政の支援を依頼して新松田駅まで送迎を任せるなど、一刻も早く列車のある場所から立ち去ったほうがよかったと考えます。なぜならば、余震あるいはさらに大きな地震が起きる可能性がありますし、線路は一見無事に見えても崩れる可能性もあったからです。

 小田急電鉄は『当社として、このような取り扱いは初めての経験であり、この経験を糧に、有事の際のお客さまご案内方針の検討・見直しをしてまいりたいと考えます』と言っています。災害ごとにどのような対応がよいのかを、小田急電鉄単独ではなく、置かれた環境の似た鉄道会社共通で設定し、沿線の自治体とも連携するようにして改善する必要があると考えます。なお、今回列車が停止した付近は市町村境が複雑で秦野市と松田町との境が入り組んだ場所です。こうした場所に列車が立ち往生したときはどうするのかを、あらかじめ沿線の自治体と協議しておくことも忘れてはなりません」(梅原氏)

 以下、梅原氏による取材に対する小田急電鉄の回答。

小田急電鉄の見解

Q1)災害による運休発生時の鉄道会社の対応として、このような対応は一般的なのか

・小田急電鉄の回答
当社沿線には、全10カ所に地震計を設置しています
いずれかの地震計で地表加速度40ガル以上を計測した場合、全列車を緊急停止します(強い揺れにより列車の運転が危険であると判断した乗務員は、橋梁等を避け、安全な場所へ運転する列車を停止することもあります)
計測値が100ガル未満であれば、次の駅まで徐行運転します
100ガル以上※1の場合は、線路・電路設備等の損傷から、最悪の事態では脱線・転覆までが想定されるため地震計ごとに設定する範囲で徒歩点検(150ガル以上の場合は、さらに試運転列車による確認も行います※2)を完了するまで、列車の運転を行いません
これにより、駅間に列車が停車した場合の対応については、運転再開までに30分以上を要する見込み、もしくは再開時刻の目途がたたない状況であれば、すべてのお客さまを対象に降車のご案内をすることを原則としています(この降車案内については、関東運輸局からの通達によるものです)
また、駅間での降車後については、線路敷地内の足元の悪さから、お客さまに転倒等のリスクが伴うため、列車から最寄りの駅もしくは踏切から、線路敷地外へご案内させていただくことを原則としています

※1 直近で100ガル以上を計測したのは東日本大震災
※2 100~149ガルの場合でも、天候状態等を考慮し、試運転列車による確認を行う場合があります

Q2)なぜ小田急電鉄はこのような対応を取ったのか(乗客が車両から降ろされて踏切まで歩かされて、山中の踏切で現地解散させられたのはなぜか? 乗客が運転士に交渉の結果、電車内での待機が許されたこととの関連は?)

・今回は海老名駅~小田原駅間をカバーする3つの地震計で100ガル以上を計測したため、地震前の降雨と地震計の計測値から、海老名駅~新松田駅間で徒歩点検+試運転列車による確認を、新松田駅~小田原駅間で徒歩点検を実施することとなりました
・なお、海老名駅~新松田駅間に停車していたすべての列車が、徒歩による安全点検後に試運転列車として点検する役割を担うこととなります
・前述のとおり、駅間に停車した列車からは、最寄りの駅もしくは踏切にご案内することとしており、今回は渋沢8号踏切(渋沢駅-新松田駅間の概ね中間)という、駅までの距離がある場所からのご案内をせざるを得ない状況におかれました
・このようななか、一部のお客さまからご希望が寄せられ、結果として列車内に留まられるお客さまが数名いらっしゃいました
・いずれは試運転列車として安全確認のための運転を行うことは決まっており、列車内に留まっていただくことが必ずしも安全とは言い切れない状況にあったため、留まられたお客さまへどのようにご案内するか、社内検討しました
・列車ごとの試運転列車としての点検範囲については、以下イメージ図となります
・最終的な対応としては、お客さまが留まられた列車をC列車と仮定すると、C列車直前まで(B列車の点検範囲)の点検を完了したB列車に乗り換えていただき、試運転列車として先行するC列車に続き走行する形で、お客さまに新松田駅から先までご乗車いただきました
・当社として、このような取り扱いは初めての経験であり、この経験を糧に、有事の際のお客さまご案内方針の検討・見直しをしてまいりたいと考えます

(参考1)渋沢8号踏切でのお見送り時刻 21時49分
(参考2)列車に留まられたお客さまが列車を乗り換えた時刻 3時26分
     新松田駅に到着した時刻 3時55分
(参考3)一刻も早い運転再開に向け、徒歩点検については海老名駅~小田原駅間を10以上の区間に細分化し、それぞれの区間に対し点検チームを組成して対応しました

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(文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

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