次世代の挑戦者を育むIVS Youth…子どもから親世代まで巻き込む“教育の恩送り”

●この記事のポイント
・日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS」が、学生・子ども向けにもイベントを開催する。次世代の起業家を育成することを目的に、小学生から高校生まで年代やスキルなどに応じてビジネスを体験できるコンテンツが多く用意されている。
・IVS Youthのディレクターを務めるマコウ氏は、「起業についてより深く知るだけでなく、自ら実践する機会も豊富に得られる場となる」と説明する。
日本最大級のスタートアップカンファレンスとして知られるIVS。その中で、次世代の起業家育成に特化した新たな取り組みとして注目を集めているのが「IVS Youth」。今回は、IVS Youthのディレクターを務めるマコウ・デイナ氏に、その立ち上げの経緯から具体的なコンテンツ内容、そして未来への展望について話を聞いた。彼女の熱い思いは、単なるビジネスイベントに留まらず、日本の教育、ひいては社会全体への「恩送り」へと通じている。
目次
- アメリカから日本へ…教育格差を目の当たりにした起業
- 未来を担う子どもたちへ、起業を身近に…IVS Youthの全貌
- 教育への“恩送り”:次世代の挑戦を多角的にサポート
- 「実践」と「対話」を重視した多様なコンテンツ
- 次世代の起業家ネットワークと親世代への啓蒙
- 「想い」が起点となる多様な起業の形
アメリカから日本へ…教育格差を目の当たりにした起業
マコウ氏はアメリカ育ちで、日本人の母親を持つことから、幼い頃より日本へ興味を抱いていた。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)から早稲田大学への交換留学をきっかけに日本に住み始め、そこで留学支援や英語教師として活動する中で、ある課題に直面する。「家庭環境によって留学が人生において難しいこともある状況を目の当たりにし、都心と地方の情報格差や教育格差によって留学する機会が平等ではないことに気づいた」とマコウ氏は語り、この経験は彼女が起業し、オンラインで留学・海外大学進学塾「Enlite Academy」を運営する原点となった。
IVSとの出会いは昨年、ボランティアとして参加したことがきっかけだった。留学支援だけでなく、多角的に学生を支援したいという思いと、スタートアップへの興味がマコウ氏をIVSへの参加へと動かしたのだ。
IVSを通してマコウ氏は、「こんなにレベルの高い、日本中や世界中で大活躍されている起業家や投資家が集まっている、なかなかない素晴らしい機会なのに、どうして学生版がないのか」という疑問を抱く。日本の学生が高いポテンシャルを持ちながら、それを発揮する機会が少ない現状を目の当たりにし、「学生向けのIVSがあってもいいのではないか」という話が持ち上がったことが、今回のIVS Youthへと繋がったと明かしている。
未来を担う子どもたちへ、起業を身近に…IVS Youthの全貌
今年のIVSは7月2日から4日に開催されるが、閉幕翌日の7月5日には、京都府主催の「IVS Youth」が終日開催される。対象は小学生から高校生までと幅広く、学生が中心となる企画が満載だ。
マコウ氏は、IVS Youthを「起業についてより深く知るだけでなく、自ら実践する機会も豊富に得られる場となる」と説明する。コンテンツは多岐にわたり、起業家の登壇、中高生ピッチコンテスト、そして小学生のビジネス体験など、あらゆる年齢層の学生が様々な角度から起業に触れられるよう工夫されている。
ゲストスピーカーの顔ぶれも豪華だ。キーノートスピーチには、上場企業であるフリークアウト・ホールディングスのグローバル社長、本田謙氏が登壇。さらに、日本で活躍する起業家や学生起業家、起業支援を行う起業家、投資家が多数登壇予定だ。IVS Youthは国内に留まらず、グローバルな視点も重視している。シリコンバレーで活躍する日本人起業家の小林清剛氏や内藤聡氏なども登壇し、「日本から海外」というテーマでディスカッションが行われる予定だ。
IVS Youthにおいて、マコウ氏は企画ディレクターとして全体を統括している。「全体の構成や、コンテンツチームと一緒に内容を固める役割」として、チームと一緒に切磋琢磨している。彼女の教育への深い関心と経験が、このイベントの根幹を支えている。
教育への“恩送り”:次世代の挑戦を多角的にサポート
マコウ氏が教育活動に注力する背景には、「学生時代から先生や周りに助けられたという経験があったので、“恩送り”という形で、自分も次世代の何かしらの力になりたいと思ったのがきっかけ」と、感謝の気持ちを熱く語る。これまでの留学支援や海外大学支援の経験を活かしつつも、「もっと幅広く、さまざまな形で学生の夢をサポートできたら嬉しい」との思いを明かした。
彼女が考える「グローバルな挑戦」は、必ずしも海外に行くことだけではない。「例えば国内でも海外の人とつながったり、あるいはグローバルなビジネスを始めたりと、さまざまな形の挑戦をサポートできたらいい」と、多角的な視点での支援を目指す。
IVS本体が大人向けの企画が多く、学生にとってはハードルが高いと感じられる中で、マコウ氏は日本の学生が持つ高いポテンシャルが十分に活かされていない現状を憂慮する。さらに、「学生だけでなく、ポテンシャルや夢があっても、なかなかそれを発揮できる機会や出会いの場は少ない。もっと活躍できる場所があるのにもったいないと感じる」と、IVS Youth立ち上げへの動機を明かした。
京都府やHeadline VCの協力も得て初の企画として実現したIVS Youthには、「学生が自分のポテンシャルを、日本だけでなく世界にも披露できるような場があったらいい」というマコウ氏の願いが込められている。
「IVS Youthに参加していただく学生は、基本的に3種類いる」とマコウ氏は説明する。
起業についてわからない層:まずは興味を広げることが目的。
起業について興味はあるが、一歩踏み出せない層:次のステップへ繋げたいと考えている学生。
すでに起業していたり、プロジェクトを進めていたり、プロジェクトを進めている層:さらに事業を広げたいという意欲を持つ学生。
IVS Youthは、さまざまな年齢層の学生を受け入れ、それぞれのレベルで起業について学べる企画となっている。同世代の仲間と繋がり、起業家や投資家から多くのことを吸収し、次のステップへと繋げることができるだろう。
「実践」と「対話」を重視した多様なコンテンツ
IVS Youthでは、学生たちが具体的な行動を通じて学ぶことを重視しており、対象年齢に合わせた多様なコンテンツを提供している。
●小学生向け:お店づくりやビジネス体験
お兄さんやお姉さんと一緒に参加するケースも多いと想定し、ビジネスに触れたことのない子どもたちも実践的にビジネスを体験できる機会を提供します。
●中高生向け:ピッチコンテスト
日本語と英語でのピッチコンテストを開催。すでに事業を持つ学生だけでなく、これから自分のアイデアを形にしていきたい学生も、さまざまな観点から起業や挑戦について学ぶことができます。
●講演と実践ワークショップ(会場:京都「QUESTION」)
会場となる京都の「QUESTION」では、幅広い学びの機会を提供予定。
★7階スピーカーズステージ: 本田謙氏のキーノートをはじめ、さまざまな起業家の話を聞くことができる。
★4階ディスカッションルーム: 起業アイデアを考えるワークショップや問題解決を中心としたワークショップなど、実践的な体験が可能です。また、アメリカやエストニアの留学・挑戦体験談が聞ける学生中心のパネルディスカッションや、シリコンバレーで起業している日本人の登壇など、グローバルな視点でのセッションも用意されている。
★4階ピッチステージ: 中高生が日本語や英語で自身のビジネスアイデアを発表する場が設けられている。
IVS Youthは、単なる学生向けのイベントに留まらない。1階には小学生向けのビジネス体験コンテンツが用意されており、まさに「職業体験」の場としても機能する。マコウ氏は、「家族や子連れの方が多いので、家庭があっても起業や挑戦することを応援できるような環境を作りたい」と語る。具体的には、ペアレンツラウンジでの保護者向けコンテンツや託児エリアも設けられており、ファミリーフレンドリーな企画となっているのが大きな特徴だ。これにより、子連れの参加者も安心してイベントに参加し、学びの時間を確保できるとマコウ氏は強調する。
既存の職業体験施設との違いについて尋ねると、マコウ氏は、IVS Youthが小学生から高校生まで幅広く対応し、各年齢層に合わせたコンテンツを提供している点を強調した。
「国内での起業、グローバルな起業のほか、学生から起業したい場合にはどうすればいいのかなど、幅広いテーマが学べます。例えば、『シリコンバレーで起業したい場合にはどうすればいいのか』といったレベルにも対応したコンテンツがあるので、各参加者が学びたいコンテンツや、自分のレベルや起業の段階に合わせたコンテンツに参加できます」と、マコウ氏は語る。このように、IVS Youthはより専門的かつ個別最適化された学びの場を提供できる点が強みだと胸を張った。
次世代の起業家ネットワークと親世代への啓蒙
参加者がビジネスや起業に興味を持った後、さらに一歩進むためのネットワーク作りについても、マコウ氏は意欲的だ。
「個人的にやりたいのは、今後IVSからたくさんの次世代起業家が生まれてほしいということ。そのためにも、若手起業家ネットワークや学生起業家、さらには起業の有無に関わらず興味を持つ、日本全国の学生とコミュニティを作れたらいいと考えています」と、マコウ氏は将来的な展望を明かした。
同時に、マコウ氏は親世代への啓蒙も重要だと考えている。「起業している親御さんや、今後社会が変わっていくにつれて、自分の子どもにも起業について伝えていこうと考える保護者も出てくると思います。だからこそ、保護者にも伝えていきたいのが、自身が起業していなくても、日本のスタートアップや起業に関して、ある程度の知識を身につけてほしいということです」とマコウ氏は語り、親世代が子どもたちの挑戦を理解し、サポートできるような環境づくりを目指す。
そのために、学生起業家のオンラインコミュニティに加え、保護者向けのコミュニティも作りたいと考えているという。「今まで親御さんがあまり知らなかった、少し扉が閉じていたスタートアップや起業について、徐々に今の保護者層に伝えていけたら」とマコウ氏は語り、IVSが親世代と次世代に与えるポジティブなインパクトに期待を寄せる。
来年以降のビジョンについても、マコウ氏は明確な目標を持っている。「個人的には、日本の学生がもっとグローバルに活躍してほしい」と語り、将来的にはIVS Youthへの参加学生が「海外の起業家と同じ土俵に立てるくらい、同じ目線で話せるようになってほしい」という願いを明かした。今年はまだ全て英語での登壇はないものの、今後はそうした機会も増やし、日本の学生が英語で海外の起業家と交流できるチャンスを広げ、自信をつけてほしいと考えている。
IVS Youthを通じて、単に起業する人が増えるだけでなく、グローバルで活躍する人材が増えることが重要なメッセージの一つだと強調する。同時に、子どもたちや若い世代に最も伝えたいこととして、マコウ氏は「一番は、思い切って挑戦してほしい」と力強く語る。
「挑戦したいのであれば、さまざまな機会がある。やりたいことがあれば何かしら、それを実現する方法はあると信じている」と、マコウ氏は可能性を信じ、最初の一歩を踏み出すことの大切さを訴える。もし金銭的なハードルや何から手をつけて良いか分からないという時は、「周りを頼り、サポートしてくれる団体や大人はいると思うので、まずは一生懸命、最初のステップを踏み出してほしい」と、具体的な行動を促した。
マコウ氏は参加者へ「パラダイムシフトを起こす、つまり社会の流れを変えるような勢いを持ってほしい」と熱いエールを送り、「日本や世界を変えるくらいの勢いや動機を持ってほしい」と期待を込める。
「想い」が起点となる多様な起業の形
最後に、まだIVS Youthに来たことがなく、起業について考えてもいない人々へのメッセージとして、マコウ氏は自身の経験を交えて語る。
「個人的な話になりますが、私はもともと全く起業を考えていませんでした。むしろ、ずっと研究や指導、教えることなど、教育寄りの人間だったんです。でも、結果的に“想い”で起業した部分もあります。最初から起業家になりたいとがっつり考えていたわけではありません。そういう観点から言えば、起業には本当にさまざまな形があると思っています。IVS Youthに参加する学生にも、どのように自分のやりたいことを形にできるか考えてほしいと思います」
IVS Youthでは、「多様な形で社会的インパクトを作っている方とたくさん出会える」と、マコウ氏は多様なロールモデルとの出会いの重要性を強調する。ビジネスカンファレンスという堅苦しいイメージではなく、「楽しいイベントにもなるので、ワイワイ楽しみながら学び、有意義な体験をしてほしい」と語る。そして、「ぜひIVS Youthに来て、夢を持つ同世代や、積極的に行動している仲間と友達になってほしい」と、参加を呼びかけた。
マコウ・デイナ氏の情熱と、次世代への深い愛情が詰まったIVS Youth。このイベントが、日本から世界へと羽ばたく新たな才能を育み、未来を創造する大きな一歩となることは間違いない。
(文=UNICORN JOURNAL編集部)