「藤田=悪の権化」を切り捨て
原田氏はアメリカナイズされた合理主義者である。日本式の礼儀や義理人情は一切通用しない。ひたすら米本社に忠誠を誓い、自らの保身に汲々とした。藤田氏の偉大さや功績、その起業家精神をも自らの意思で評価しようとしなかった。米本社も藤田氏へのリスペクトもなく、「藤田=悪の権化」として切り捨てることで日本マクドナルドが再構築できると思っていた。原田CEO時代、日本マクドナルドのホームページからは藤田氏の痕跡が消された。
原田氏は米本社から与えられたミッション、すなわち藤田氏の功績の抹殺、藤田派の幹部の切り捨て、経営システムの破壊などを進めた。原田氏の経営についてはすでに数多く報じられているのでここでは詳しくは触れないが、2つだけポイントを取り上げよう。
一つが、日本マクドナルドの根幹にある「品質管理システム」をコスト削減の名目で外部に委託したことだ。このため一連の異物混入問題が発生した時、その実務を担える人材が流出していたために対応できなかった。原田氏が行き過ぎた組織破壊を進めて人材を流出させたことが、このような問題を引き起こした。
もう一つがFC化率を高めたことだ。藤田時代、のれん分けのかたちで独立させたFCが全体の3割にとどまっていたのに、FC化率を7割まで高めた。直営店舗をFCオーナーに売却し、大ざっぱに約150億円の利益を出した。原田氏が推進したFC化率7割は、ハンバーガー大学のようなかたちで藤田氏が構築してきた教育研修システムを破壊した。
「FC化を進めたことで、現場のクルーのモラルは大きく下がりました。藤田時代ならアルバイトにも研修を受けさせ、アルバイトから社員になる人も多かった。社員になるとマネージャー教育が受けられ、経験を積んで複数店を管轄するスーパーバイザーに昇格すれば米国研修へ行けるといった研修システムが出来上がっていました。やる気のある人材が登用されるケースがよくありました。ところがFC化すると、アルバイトから本部の社員に登用されることが難しくなります。また、アルバイトもFC店では出世できても、本部の社員として活躍する道が閉ざされ、どうしてもモラルが下がってしまうのです」(マクドナルド研究の第一人者で関西国際大学教授の王利彰氏)
店舗でのクルーのモラルの低下は、相次いで異物混入問題が起こる引き金になった。
ところでFCオーナーの8割以上は元社員であり、店長、スーパーバイザーなどの経験のある中堅幹部だ。藤田時代の教育システムで育ってきた人が多く、原田氏にしてみれば抵抗勢力になる人たちだった。
原田氏は抵抗勢力に対してはアメとムチで対応した。例えば07年11月、抵抗勢力のFCオーナーたちが「社内基準を過ぎたサラダを賞味期限偽装で販売」していたのを捉え、偽装が発覚した4店舗のFC契約を解除し、直営に移行させた。一方、原田氏に尻尾を振ってくる人たちを取り込み、直営店を売却しFCオーナーとして独立させた。
原田氏は04年5月に日本マクドナルドのCEOに就き、13年8月、カサノバ氏にCEOを譲って代表権のない会長に退いた。原田氏は藤田時代の役員をすべて解任し、原田氏が就任中だけで役員が3回交代、就任時に外部からスカウトしてきた取締役も全員退任させてしまうなど、独裁的な経営手法で有能な役員、経営幹部、中堅幹部などを辞めさせた。その結果、カサノバ氏のブレーンには使える人材が残らず、それが異物混入問題の傷をより深くしたといわれる。
原田氏の2大愚策といわれるのが、12年に実施したカウンターからのメニュー撤去、もう一つが13年に実施した、60秒以内に商品が提供できなければ無料券を渡すというキャンペーンだ。どちらも客のことも店舗スタッフのこともわかっていない無責任な思い付きで、現場はひたすら混乱したという。藤田時代の古き良き日本マクドナルドは、この時期に壊れてしまったのかもしれない。