当初は経営者も我慢していた。彼女の客は月に100万円近く落としてくれる。1割ほど実入りが減っても辞められるよりはましだと、最初は見て見ぬふりをしていたのだ。
しかし、味をしめた彼女は次第に欠勤が目立ち、直引きで月50万円以上を稼ぎ始めた。経営サイドがもっとも嫌がる当日のドタキャンも始まったため、経営者は一計を案じる。探偵を雇って直引きの証拠写真を撮影し、客に対して「直引きは(買春になるため)犯罪です」と連絡を入れたのだ。もちろん警察に突き出すつもりはないが、そう語ることで、多くの客が彼女と連絡を取らなくなった。
直引きがバレた理恵子の末路
そして、理恵子にも客と直引きをしている証拠写真を突きつけて、ペナルティとして罰金を科した。業界的に契約書を交わす慣習こそなかったが、経営者は「ふざけるな!」と怒りをあらわにし、直引きで稼いだ金額の数倍を“その筋”から借金させて店に支払わせた。
仮に拒否した場合、出勤日にコワモテのチンピラを客としてあてがい、彼女を怖がらせることすら考えていたようだ。風俗嬢が安心して勤められるのは店が仲介しているため、ということを身に染みさせるためである。
風俗嬢にとって、直引きが“おいしい仕事”であることは間違いない。店外で1日数時間遊んでくれる常連客が多ければ多いほど稼ぎが増え、嫌な客につかなくても済む。不特定多数を相手にしなくなるため、性病にかかる危険性も低くなる。
しかし、当然ながら、トラブルが起きれば、すべて自己責任となるのが現実だ。金にものを言わせるかたちで好き勝手なことをされても文句は言えず、客がストーカーになることもあれば、知らないうちに薬物を使われる危険もある。安心して働くためには店の存在が不可欠なのだ。
借金を抱えた理恵子はその後、ソープランドに身を沈めたが、それは直引きがバレたことによる当然の末路だったのかもしれない。
(文=井山良介/フリーライター)