――応用としてはどのようなものを考えていますか。
田中 基礎研究ですから、いきなり社会で応用というのはなかなか難しいのですが、バルブとしては、ごく小さなデバイスとして体内に埋め込むことができれば、体の異変を自動的に察知して薬物を放出するなど、高血圧などの緩和に応用できるかもしれませんね。体外で使用するならば、薬剤の効果や毒性等を調べるための試験などに使用できるかもしれません。
――今回電気刺激を使わなかったのはなぜですか。
田中 体の中では電気は使いにくいですし、基本的には体の中にあるものを駆動源としたいと思いました。体の中で薬を放出する機械なども、電源がネックでなかなか実用化しません。人間の心臓は80年安定して使える、ある意味では究極の機械で、残念ながら今の機械で代用することは無理なんです。
――そう考えると生物は本当に神秘的ですね。
田中 駆動源にも刺激にも電気を用いずに、動きを外部から制御する装置としては、初めての例といえます。電気刺激のポンプと違い、アセチルコリンを使った今回の研究では、使用後に洗浄すれば複数回動作させられます。
――今後の研究における目標はどのようなものですか。
田中 研究はライフワークですので目標というと難しいのですが、ゴールをあえて設定するならば、実現には遠いですけど、例えば体に埋め込むことのできる医療機械などにつなげていきたいとは思っています。
――実用化への壁はなんですか?
田中 例えば今回のようにミミズを埋め込むとなれば普通は嫌ですよね。自分の細胞からつくるのがベストですから、iPS細胞など再生医療的知識も必要になります。また制御系も問題で、当然体の中ではピペットを使うことはできません。血管は勝手に伸びたり縮んだりしていますが、血管のように自律的に動くのが理想なのですが……。すでにIoTという今までインターネットにつながっていなかったモノをつなぐ技術がありますが、体の中で装置をどれだけ制御できるかですね。
――研究は楽しそうですね。
田中 ものづくりは自分にしかできないことがたくさんあります。小学生の自由研究みたいな部分もあって。調べるだけなら誰でもできるかもしれないけど、つくるのは違います。理研のなかでも工学系の人はこういう人は多いかもしれません。
【終わりに】
田中チームリーダーは取材の最後に、オジギソウからロボットをつくるアイデアを話してくれた。理化学研究所は、現在3000人以上の研究者を抱えている。派手とはいえない研究も多いが、数えきれないほどの興味深い研究が行われている。理研のさまざまな研究成果に、我々が積極的に関心を持つことで、日本が誇るべき研究機関を活性化させることにつながるのではないだろうか。
(文=津田土筆)