朝晩だいぶ冷え込むようになり、もうすぐ風邪が本格的に流行する季節がやってきます。6月15日付本連載記事『風邪薬は飲んではいけない!海外では常識 恐怖の薬漬けスパイラルの入り口』において、風邪薬の危険性について言及しましたが、今回は抗生物質を乱用することで起こる耐性菌についてお話します。
2002年から5年間、フランスでは風邪がはやる冬場になると「抗生物質を無条件に飲んではダメ!」「抗生物質を処方されたら、医師に『本当に必要ですか?』と尋ねましょう」と訴える抗生物質の乱用を戒めるテレビCMが頻繁に流されていました。
スポンサーはフランスの社会保険省で、日本の厚生労働省に相当します。「麻薬をやめよう!」というCMなら世界各国で何度も流れたことがありますが、抗生物質をターゲットにしたCMはこれが初めてです。
フランス政府がここまで踏み込んだのは、このまま抗生物質の乱用を放置すれば、将来抗生物質の効かない人が大量に出るだけでなく、新たな耐性菌の出現や院内感染の増加などで医療費が増大し、政府が莫大な負担を強いられるという危機感があったからです。
フランスに限らず、EU全体で抗生物質が効かない耐性菌に感染して死亡する人は急増しており、その数は毎年2万5000人を超えています。そのため、これまでごくマイナーな死因だと思われてきた「耐性菌感染死」は一気に重大な社会問題になりました。EUは、その対策に15億ユーロ(約2000億円)の支出を余儀なくされています。
そのEUで、最も抗生物質の乱用が顕著だったのがフランスでした。風邪をちょっとひいただけで、誰もが当たり前のように抗生剤を欲しがり、子どもにも平気で飲ませていました。
医師も軽い中耳炎から症状の重い肺炎まで何にでも抗生物質を使うため、フランスはずっと欧州最大の抗生物質消費国でした。そこで当時のシラク政権は草の根の意識改革から取り組む必要があるということで、テレビCMを使ったキャンペーンを始めたのです。
目標は5年間で国全体の抗生物質の消費を25%減らすことでしたが、最終的に26.5%減らすことに成功しています。
EUでは、長い間、家畜のエサに混ぜて使われていた抗生物質の使用も06年に禁止されました。使われていた抗生物質は、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系、マクロライド系などで人間に使われているものと同じですから、家畜は耐性菌ができる温床になっていたのです。
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