抗生物質乱用続く日本
翻って、日本の現状を見るとどうでしょうか。
抗生物質の乱用は収まる気配を見せておらず、『アエラ』(朝日新聞出版/2014年10月27日号)が行った新潟県の小児科医を対象にした調査では、48%が子どもの風邪の治療に抗生物質を使っていると回答しています。
町のクリニックに行けば、炎症の指標のひとつであるCRP(Cタンパク反応性)の数値がちょっと高いというだけで自動的に抗生物質が処方されています。手術後などに予防目的として1週間くらい少量の抗生物質を服用させることも、頻繁に行われています。これは無意味な投与で、耐性菌を生む大きな要因になっているのです。
日本では、家畜のエサに抗生物質を混ぜて豚、肉牛、ブロイラーを飼育することが禁止されていません。EUだけでなく、米国も家畜に対する抗生物質の日常的な使用を禁止する動きが出ているので、数年後には抗生物質入りの飼料を家畜に与える国は、先進国では日本だけになるかもしれません。
抗生物質をエサに混ぜるのは、病気予防という目的もありますが、それ以上に大きいのは「成長促進」が狙いです。胃や腸から悪玉菌が減って栄養の吸収がよくなるのです。
主婦を中心に、抗生物質やホルモン剤を投与した家畜の肉に対して、とても神経質になっている人が多くいますが、そのような人のうちでも、自分自身が病気になった場合に抗生物質を飲んでいるケースを見かけます。まるで、人間用の内服薬と家畜に投与されている抗生物質をまったく別物と考えているようですが、家畜用に開発された抗生物質などありません。どちらの抗生物質も同じものです。
日本では家畜に人間の2倍以上の抗生物質が使われており、多剤耐性菌を生む温床になっているのが現状です。多剤耐性菌の代表格はMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)ですが、EUの調査機関であるEARSS(抗菌性の抵抗監視システム)の調査によると、黄色ブドウ球菌の多剤耐性率はオランダ、スウェーデンが3%以下、ドイツが20 %以下、イタリア、ギリシャが30~40%、イギリスが40~50%、米国が50%、日本が50%以上という数字が出ています(EARSS『年次報告2008』)。
結核菌、肺炎球菌、大腸菌なども高い割合で耐性化しています。欧州では多剤耐性菌による死者は2万5000人以上確認されており、このうちの5000人は英国です。米国は2万3000人です。一方、日本では一部のメディアで約2万人との推計を報道していますが、正式発表はありません。
毎年、老人施設などで繰り返し問題となる多剤耐性菌による死亡事例。本当に必要な時に細菌に対する効果を発揮させるためにも、抗生物質の安易な使用は避けたいものです。
(文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士)
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