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石原結實「医療の常識を疑え!病気にならないための生き方」

野村克也さんも…入浴中の死亡、年約2万人に 冬の風呂場で死なないための対策リスト

文=石原結實/イシハラクリニック院長、医学博士
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「Getty Images」より

 去る1月6日、警察庁から発表された2019年の交通事故死者数は前年比317人減の3215人と、統計が始まった1948(昭和23)年以降で最少となった。1970(昭和45)年は1万6765人もの人が交通事故で亡くなられたのだから、まさに隔世の感がある。

 交通事故減少の要因としては、

1. 車両性能の向上

2. シートベルト着用率の上昇

などが挙げられているが、「取り締まり強化によるスピード違反や酔っ払い運転を減少させた」警察の方々の努力が、もっとも大きいのではないか。

 さて、交通事故死は年々減少する一方、入浴中の死亡が増えている。11日に虚血性心不全で死去した野球解説者の野村克也さんも、浴槽の中で意識を失っているところを家政婦に発見された。

 ここ数年は毎年1万8000~1万9000人が入浴中に亡くなっている。入浴して体が温まると、血管が拡張して血流が良くなり、その結果、以下の効果が表れる。

1. 脳からβエンドルフィンなどの快感ホルモンが分泌されてリラックスし、心身の疲労が取れる

2. 代謝が上がり、血液中の脂肪、糖の燃焼を促し、糖尿病、高脂血症の予防・改善効果を発揮する

3. 発汗・利尿を促してむくみをとる

4. 皮膚の血行、皮脂の分泌をよくし、美肌をつくる

5. 白血球の働きを高めて、免疫力を上げ、風邪をはじめ種々の病気の予防・改善に役立つ

6. 血栓溶解酵素(プラスミン)の産生を高めて、血液をさらさらにし血栓症(脳梗塞、心筋梗塞)、高血圧の予防・改善に役立つ

 日本人の長寿の要因のひとつに「世界一の風呂好き」が挙げられるだろう。日本には温泉地が3000カ所以上あり、毎年温泉地に宿泊する人の延べ人数が約1億3000万人にもなるという。

 奈良時代以前からも傷を癒すために温泉につかるという習慣はあったようだが、種々の病気の治療(湯治)のために長期間滞在できる湯治宿場があちこちにできたのは、江戸時代に入ってから。今は湯治というより、温泉地はレジャーのひとつとして楽しまれている。

脳貧血で意識が低下し「溺死」

 こうした温泉地や自宅での入浴中に毎年2万人近くの方々が生命を落とされるのだから、事は穏やかではない。

入浴死」の原因は“Heat shock(ヒートショック)”であると一般の医学は説明している。寒い冬の入浴時は、脱衣場の気温が低く、血管が縮んで血圧が上がる。その状態で熱い湯船につかるとさらに血圧が上がり、脳卒中や心筋梗塞、不整脈などの心血管系の病気の発作が起こるというのだ。

 よって、入浴前に湯船のフタを取り、脱衣場と浴室の戸を開けて暖かい蒸気を脱衣場に流して温度を上げる。湯船につかる前に必ず2、3回はかけ湯をすることで「ヒートショックを防ぐ」というのが入浴中の不測の事態を防ぐ方法として示されている。

 確かにヒートショックによる死亡事故も一定の確率では起こるが、それより多いのは「溺死」である、と私は推測している。10分以上はおろか30分以上も湯船につかっている人がいらっしゃるが、その結果、体が温まって血管が拡張する。すると心臓の血圧を押し出す力(血圧)は弱くて済むので血圧が下がる。血圧が下がった状態で、いざ湯船の外に出ようとして立ち上がったとき、脳に十分に血液が行かず「脳貧血」を起こして、意識が低下し、湯船の中で倒れ「溺死」ということになる。

 体を十分に温めたいなら、いたずらな長湯より、「10分以内の入浴→3分湯船の外→10分以内の入浴→3分湯船の外」を繰り返す入浴法のほうが、血管拡張と血管収縮を繰り返す温冷浴(温浴と冷水浴の繰り返し)と同じ効果があり、保温・健康効果抜群である。

特に飲酒後の長湯には注意

 私が医学生の頃の、50年前より尊敬・崇拝してきた血液・生理学者で長寿学者の森下敬一医学博士が、2019年12月31日、入浴中に突然死された。博士は1928(昭和3)年3月3日生まれ。1950(昭和25)年、東京医大を卒業後、血液生理学の研究に没頭され、昭和30年代(1955~)の初めに赤血球は骨髄ではなく腸の母細胞からつくられることを顕微鏡写真に写されて証明され、「腸造血説」を唱えられた。当時の朝日、毎日、読売、日経などの一流紙の一面に「骨髄造血説を覆す腸造血説-森下敬一医博」などという記事が何回も掲載された。

 その後、「腸造血説」は正統医学(者)から潰され、日の目を見なかったが、最近、欧米の医学誌に「腸造血説」の正しさを証明する研究論文がいくつも掲載されるようになった。森下博士は2019年4月末まで約50年間にわたり東京の本郷で「お茶の水クリニック」を運営され、玄米自然食を中心とする食事療法で数多くの難病・奇病患者を救ってこられた。

 一方、この40年間は世界の三大長寿地域のコーカサス地方、ヒマラヤのフンザ地方、南米エクアドルのビルカバンバ地方の長寿者たちの「食事を中心とする長寿のための生活」について調査されてきた。亡くなられたつい10日前にも中国西部のシルクロード沿いにある長寿村に調査に出かけられ、帰国されたばかりだった。

 亡くなった日、普通に夕食を摂られ、入浴のために浴室に行かれたが、なかなか戻ってこないので家人が浴室を覗きに行くと亡くなられていたという。享年91歳10カ月。一般の人にとって91歳は十分な長寿ではあるが、森下博士は91歳になっても常用薬なし、健康診断に異常なし、50代、60代と同じくらいの身体能力があり、入浴直前まで普通にされていた。

「風呂は日本人の不老長寿」の要因ではあるが、風呂には魔物も潜んでいる。世界的な「長寿学者」の森下博士の生命を一瞬にして奪ったくらいなのだから。長湯、特に血管が拡張し、血圧が下がっている飲酒後の長湯には注意されたし。

(文=石原結實/イシハラクリニック院長、医学博士)

石原結實/イシハラクリニック院長、医学博士

石原結實/イシハラクリニック院長、医学博士

1948年長崎市生まれ。長崎大学医学部を卒業後、血液内科を専攻。「白血球の働きと食物・運動の関係」について研究し、同大学大学院博士課程修了。スイスの自然療法病院B・ベンナー・クリニックや、モスクワの断食療法病院でガンをはじめとする種々の病気、自然療法を勉強。コーカサス地方(ジョージア共和国)の長寿村にも長寿食の研究に5回赴く。現在は東京で漢方薬処方をするクリニックを開く傍ら、伊豆で健康増進を目的とする保養所、ヒポクラティック・サナトリウムを運営。著書はベストセラーとなった『生姜力』(主婦と生活社)、『「食べない」健康法』(PHP文庫)、『「体を温める」と病気は必ず治る』(三笠書房)、石原慎太郎氏との共著『老いを生きる自信』(PHP文庫)、『コロナは恐くない 怖いのはあなたの「血の汚れ」だ』など、330冊以上にのぼる。著書は韓国、中国、台湾、アメリカ、ロシア、ドイツ、フランス、タイなど世界各国で合計100冊以上翻訳出版されている。1995~2008年まで、日本テレビ系「おもいッきりテレビ」へのレギュラー出演など、テレビ、ラジオ、講演などでも活躍中。先祖は代々、鉄砲伝来で有名な種子島藩の御殿医。

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