携帯電話業界では毎年5月に「夏モデル」が発表されるが、今年は成熟したスマートフォン(スマホ)市場に各キャリア(携帯電話会社)がどう取り組んでいくのかが、大きなテーマとなった。
この命題に対し、「使い勝手の向上」で応えたのがNTTドコモだ。夏モデルの共通機能として「スグ電」を投入。これは、スマホを振って特定の相手に電話をかけたり、耳に当てるだけで電話に出たりできる機能のこと。開発はドコモが主導しており、「Galaxy S7 edge」や「Xperia X Performance」などの機種に、共通してプリインストールされている。
スマホの基本機能である電話機能にもさらなる磨きをかけてきた。LTEを経路に使い、高音質な音声通話を可能にするVoLTEを強化。GalaxyとXperia、AQUOS ZETAの3機種が「VoLTE(HD+)」に対応する。これはVoLTEのコーデックを「EVS」に変更したもので、「FMラジオ並みの音質」(ドコモ関係者)を誇る。対応機種は限られるが、肉声をよりクリアに聞き取れるようになるのはユーザーのメリットだ。
また、ドコモは「おすすめ使い方ヒント」と呼ばれる機能も、夏モデルに内蔵した。これは、文字通りポップアップで操作方法のヒントが出る機能。スマホに慣れていないユーザーを取り込むためのヘルプ機能のようなものだが、直接、設定画面に飛ぶこともできる。「詳しいユーザーがウザいと感じないよう、判定するロジックも入れている」(同)といい、押しつけがましくならないような注意も払われている。スマホの使い勝手を底上げする機能をアピールしてきたドコモだが、これは冒頭で述べたスマホの成熟化に対する答えのひとつだ。
ラインナップ縮小の傾向
一方で、スマホ同士の差が出しづらくなっているのも事実。そこでドコモは、同時に「ラインナップを1年間で1機種出すというスタイルに変えていきたい」(プロダクト部長 丸山誠治氏)と、ラインナップの縮小も進めていく。
スマホの進化が以前より緩やかになるなか、夏と冬春の2回、高機能なモデルを出す意味は薄れている。ほぼ同じような機種が2回続けて出るのであれば、1回にまとめて調達量を増やしたほうがいいというのがドコモの考えだ。ただし、これは同一ブランドの新端末発売が年1回になったというわけではない点には注意が必要となる。
ドコモの加藤薫代表取締役社長は明言は避けたが、「各メーカーには特徴のある機種があり、それをどういう周期で、どうラインナップするかは検討している」と述べている。たとえば、Xperiaであればフラッグシップモデルのほかに、それを小型化したCompactシリーズもラインナップしていた。こうしたモデルをシーズンごとに出し分けるというのが、ドコモの狙いだろう。グローバルでもフラッグシップモデルは「年1回」が定着しているため、これは理にかなった戦略ともいえるだろう。
ただ、市場環境の変化によって、さらなるラインナップの縮小を余儀なくされる可能性もある。安倍晋三首相の鶴の一声で発足したタスクフォースによって、4月1日から「実質0円」が事実上、禁止されてしまった。これに伴い、大手キャリアには停滞感も漂っている。MVNO(仮想移動体通信事業者)向けにラインナップされたSIMフリースマホとの差も縮まりつつあり、大手キャリアにとって苦しい環境であることに変わりはない。
軸足は上位レイヤーのサービスやコンテンツへ
実際、ソフトバンクは夏モデルの発表会を見送り、プレスリリースを出すだけにとどまった。ラインナップされたスマホはわずか3機種。しかもXperiaやAQUOSは、他社にもあるラインナップだ。ドコモやauで発売され好調に販売数を伸ばしているGalaxy S7 edgeも、ラインナップには含まれていない。
昨年は同社初のGalaxyとして「Galaxy S6 edge」を発表していたり、ワイモバイルでマイクロソフトの「Surface 3」を取り扱うことを表明したりと、夏商戦に向けた意気込みを見せていたソフトバンクだが、そのときと比べ大きくトーンダウンしている印象すらある。ソフトバンクグループの孫正義代表取締役社長は「ワイモバイルが絶好調」というが、これは裏を返せばソフトバンク側であまりユーザーを獲得できていないということだ。
キャリアの軸足は、どちらかといえば上位レイヤーのサービスやコンテンツに移りつつある。ドコモは「+d」として他企業との連携を推進。夏モデルに合わせ「dリビング」などの新サービスを発表した。業績を見ても「dTV」や「dマガジン」「dヒッツ」などのサービスが好調で、この分野の規模はさらに拡大していく方針。ソフトバンクも孫氏が光回線をセットにしながら、その上のコンテンツで差別化する方針を明かしている。