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新見正則「医療の極論、常識、非常識」

暑い夏、水を一日2リットル飲まないと危険?いや、逆に極力飲んではいけない?

文=新見正則/医学博士、医師

 アフリカなどのドキュメンタリーを見ていると、撮影クルーはペットボトルを常備し水分補給を常時しているのに、現地の人たちは水も飲まず、肉眼でわかるほどの汗もかかず、ほぼ丸一日屋外で作業することも可能です。ラクダはそんな機能を備えています。少量の尿で不要物を排泄できます。そして相当な高体温でも汗をかかず、一度にたくさんの水を飲むことも可能です。そんな条件があるからこそ、砂漠の行軍が可能になります。

少々多めに水分をとるべき?

 さて、人間のお話に戻りましょう。必要最小限の水分補給は必要です。一方で、心臓や腎臓が悪ければ、過剰な水分を即座に尿として体外に排泄できません。ですから、体がむくむのです。心臓と腎臓が元気であれば、摂取した水は主に尿として排泄されますから、それほどの害にはなりません。水分だけを補給するとミネラルが薄くなって、そして水中毒といった状態になることもありますがごくまれです。

 常識君がまとめます。

「人はいろいろです。健康であれば、適当な水分量で十分です。不要な水分は尿として出ます。水分不足であれば喉が渇きます。喉が渇いているのに水分補給をしないと、この時期は熱中症などになります。つまり、心臓と腎臓が悪くなければ、そして水分を飲もうかどうしようかと悩むなら、いっそ少々水分を多めに取ることが問題ない対処と思われます」

 一方で、心房細動という心臓の病気があります。これは心房が正常に収縮しないで、震えている状態のことです。そんな血液の流れがあまりない心房内には血の塊(血栓)ができやすいのです。ですから、脱水になると血栓の形成を助長するので、心房細動の人には水分の摂取を勧める先生が多いのです。心臓の病気なのに水分を取ったほうが安全なのです。

 悩めば主治医に相談しましょう。そして内服するような病気がない人、心臓も腎臓も悪くない人であれば、少々多めに水分をとっていいと思います。常識君の「人はいろいろ」という主張が何より大切で、そのなかには極論君が主張するように水分を比較的多めに取った方がいい人もいるでしょうし、非常識君が言うように水分を極力控えたほうがいい人もいます。
(文=新見正則/医学博士、医師)

新見正則/医師、新見正則医院院長

新見正則/医師、新見正則医院院長

外科専門医 /消化器病専門医 /消化器外科専門医 /消化器内視鏡専門医
慶應義塾大学医学部卒業後、外科医として研鑽を積む。大学病院や関連病院で診療にあたるほか、英・オックスフォード大学にて博士課程を修了。
新見正則医院 公式サイト

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