死亡率100%の狂犬病、14年ぶりに国内で感染者…発症から10日程で昏睡状態→呼吸停止
愛知県豊橋市は6月15日、狂犬病を発症した30代外国籍の男性が死亡したと発表した。報道によると、死亡したのは今年2月にフィリピンから来日した男性で、5月18日に豊橋市の医療機関を受診し、5月22日に狂犬病への感染が確認された。犬に噛まれた時期は、去年9月ごろだという。
新型コロナウイルスに関心が集まるなかだが、コロナ以外にも命を脅かすウイルスがあることを認識すべきだろう。
狂犬病は、狂犬病ウイルス(Rabies Virus)に感染して引き起こされる人獣共通感染症である。イヌ、ネコなど、すべての哺乳類に感染する。狂犬病ウイルスを保有する動物に噛まれたり傷口や粘膜を舐められると、唾液に含まれるウイルスが筋肉から神経末端に入り込み、時間をかけてジワジワと広がり、中枢神経を通り脳に到達する。さらに、ウイルスは脳で増殖し、再び神経系を通してほかの組織に広がっていく。
今回の豊橋市の例でも、昨年9月に犬に噛まれて感染が確認されたのが5月であり、実に8カ月もの期間をかけて発症に至っている。
一般的に、狂犬病ウイルスの感染から発症までの潜伏期間は1~3カ月程度といわれるが、半年や1年を超えて発症した例も報告されている。狂犬病の初期症状は、発熱、頭痛、倦怠感などだが、ウイルスが脳に到達し増殖すると、炎症が進行し、錯乱や幻覚といった精神症状を引き起こす。発症後の特徴的な症状は、恐水・恐風症状である。水や風を極端に恐れるようになり、水を見ただけで痙攣症状を起こす。
発症後、死亡までの期間は10日前後といわれるが、報告例を見ると2日程度で死亡しているケースも多い。発症後は、昏睡状態から呼吸停止を起こし死に至る。狂犬病は、発症すればほぼ100%、死に至る感染症である。
海外では、紀元前1930年頃の「エシュヌンナ法典」や「ハンムラビ法典」にも狂犬病について書かれており、狂犬病と人類との歴史は4000年にも及ぶ。日本では、717年に発布された「養老律令」に狂犬病について記録されている。
現在、日本国内では1956年を最後に発生はないが、今回の愛知県のケースのような輸入感染事例では、1970年にネパールからの帰国者で1例、2006年にフィリピンからの帰国者で2例、報告されている。
世界保健機関(WHO)によると、現在も全世界で毎年3万5000~5万人が狂犬病によって死亡していると発表されている。
犬を飼育する場合、狂犬病の予防接種は義務となっており、居住する市区町村で年に1度、狂犬病予防注射の集合注射が行われる。しかし現在は、新型コロナの感染拡大防止の観点から中止となっている市区町村も多い。中止になっているからと予防接種を怠ることなく、動物病院で個別に摂取してほしい。
狂犬病に限らず、コロナ禍において、これまで当たり前に受けていた予防医療が受けにくい現状であることは否定できない。“withコロナ”社会が長く続くと予想される今、必要な医療を後回しにして健康と安全を脅かすことがないように、医療機関の体制が整うことを願う。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)