●インドでは外貨獲得のための国策
こうした段取りを経てドナー、レシピエントがそろったあとは、それぞれにカウンセリングや血液検査、婦人科の検査を実施。身体的リスク等のインフォームドコンセント(説明と同意)を経て、体外受精へと至る。ドナーが負う可能性のある身体的リスクには、卵子の採取による卵巣の腫れや、腹部膨満感が挙げられ、無償で引き受けるにはかなり覚悟が必要そうだ。ここに、海外と日本の大きな差があると高橋医師は指摘する。
「日本国内だけを見ると倫理問題等が言われていますが、海外ではすでに30年前より実施されており、出生数は10万人を超えています。卵子提供体外受精の実施件数が多いのは、アメリカ、スペイン、イギリス、オーストラリアあたり。いずれもドナーの多くは有償で、オーストラリアでは国が卵子提供による体外受精の助成金を出しています。また、インドは外貨獲得のための国策として卵子提供や代理出産が行われており、カースト制度の最下層の女性の仕事となることもある。インドは、価格が数十万円と安いため、日本から行く人もいます」
国内法が未整備の日本からすると、驚くべき状況である。前出の岸本さんは「個人的には、お金で卵子を売買することには、賛同できません。だからOD-NETは無償ボランティアにしました」と言う。
一方で、高橋医師はまた異なる見方をしている。
「医療で『絶対してはいけないこと』は、基本的にはないと思います。同じ条件で平等という概念は、日本では好まれますが、貧しい人の医療費は誰がバックアップしているのでしょうか。お金を提供した人が受ける医療を禁止することはできないと思います」
卵子提供による体外受精は、ほかにも戸籍の問題や、生まれた子の出自を知る権利等、クリアしなければならない課題が山積している。それぞれ賛否のあるテーマだが、海外の進展状況を見ると、国内での議論を先延ばしにするのも限界があると言わざるを得ない。
始まったばかりのOD-NETの取り組みは、今後、国民的な議論を促すきっかけになりそうだ。
(文=越膳綾子)