生活情報や健康情報を紹介する番組『ガッテン!』(NHK総合)の2月22日放送回『最新報告!血糖値を下げるデルタパワーの謎』で、「睡眠薬で糖尿病の治療や予防ができる」などと紹介したことに対し、日本神経精神薬理学会と日本睡眠学会が連携して異議を申し立てたほか、厚生労働省が懸念を示すなど大きな話題となった。
これに対しNHKは、番組ホームページで謝罪文を掲載し、さらに3月1日放送回の冒頭でも約3分にわたり、司会の小野文惠アナウンサーが「説明が不十分だったり、行き過ぎた表現があったりしたため、混乱を招き、大変申し訳ありませんでした」などと何度も頭を下げ、誤解を生むような表現をした箇所について説明した。
具体的に、どのような点に問題があったのか。また、異議を申し立てた日本神経精神薬理学会と日本睡眠学会は、NHKの謝罪内容をどのように受け止めたのだろうか。両学会に取材したところ、「NHKの謝罪を受けて、本学会からの公式見解をまとめるべく準備しているため、現時点ではコメントすることができない」として、いずれも回答を得られなかった。
そこで、厚労省に取材したところ、NHKに注意を与えた内容としては、「不眠症薬を糖尿病患者に処方することは、薬品の不適正な使用につながるおそれがある。また、『副作用がなくなってきている』という表現は、誤解を生む可能性がある」との懸念を伝えたという。さらに、NHKのホームページ上での謝罪文および番組内での謝罪・訂正も厚労省として把握しており、「今後も、薬品が適正に使用されるように促す番組づくりをしてほしいと考えており、見守っていく」との見解を表明した。
だが、これですべてが終わったわけではない。なぜなら、2月22日の『ガッテン!』を観た視聴者のうち、全員が訂正された情報を得たわけではないからだ。
都内の内科医は、いまだに複数の糖尿病患者が、番組内で紹介された睡眠薬「ベルソムラ」を指定して処方するように要求してくるという。なかには、訂正されたことを知ったうえで、なお「睡眠の質が向上して血糖値も下がる可能性がある」と信じて、処方してほしいと求める人もいると嘆く。
同内科医は、2月22日放送回で「睡眠薬で糖尿病が改善する」と紹介された後、睡眠薬を求める患者が立て続けに現れたため文献を調べたが、どの睡眠薬でも血糖値が下がったという有意な情報は見当たらなかったという。日本神経精神薬理学会と日本睡眠学会も、番組で紹介された睡眠薬について、「既存の臨床試験データにおいても血糖降下作用は確認されていない」としている。
だが、NHKの謝罪・訂正内容では、「『オレキシン受容体拮抗薬』という睡眠薬を中心に紹介しましたが、これ以外の睡眠薬にもそれぞれ利点があり、血糖値が下がったという研究も報告されています」と説明している。