では、中高年のひきこもり・ニートは、なぜこれほど増えたのだろうか。関水氏は、その背景をこう分析する。
「日本社会では、高度経済成長期に男性が企業に正社員として就職し、夫として家族の生活を経済的に支え、女性が妻として育児・介護を担うというライフスタイルが一般化しました。
ところが、1990年代半ば以降、企業はリストラの名の下に人件費削減を進め、それに伴って学校から企業へのパイプラインも縮小しました。結果、企業に正社員として就職できない人が社会にあふれ始め、さらに労働環境も厳しさを増して、うつ病などで退職に追い込まれる人も増加していきました」(同)
現在の日本社会は、そうした人たちに対するセーフティーネットが十分とはいえず、学校や会社を一度離れてしまうと「家」以外に居場所がなくなってしまう。そのため、ひきこもりやニートとなり、家族に寄りかかって生きるしかない状況に陥る人が増えるのだという。
そして、ひきこもり・ニート状態に陥ると、周囲からの叱責や焦り、不安、自責の念によってメンタルヘルスがますます悪化する。また、その期間が長引けば長引くほど家族の負担も増し、両者にとって大きな負担となっていくのだ。
ひきこもり・ニート支援の意外な落とし穴
中高年のひきこもり・ニートがこの悪循環から抜け出すには、どんな支援が必要なのか。関水氏は、「生活を支えるための生活保障、特に住宅手当、医療手当、就学手当や無料の職業訓練・相談の機会などが重要です」と語る。
「家族や会社のほかに、個人の生活を支えるさまざまな社会手当が整備され、それを必要としている個人が利用可能な状況になることが早急に必要だと思います」(同)
雇用環境が厳しいなかで、就労による自立を目指す支援だけではひきこもり・ニート問題の現実的な解決にはならない。
「単に自立を促すだけでは、ひきこもり・ニート状態にある本人が『こんな状態の自分ではダメなんだ』と自己否定を強め、ますますアクションを起こせなくなりかねません。本人がひきこもり・ニートにならざるを得なかった背景を理解すること、どの方向に一歩を踏み出していけばいいかを本人とともに考えるような支援が求められていると思います」(同)
こぼれ落ちた個人を社会が支える仕組みを整えない限り、この問題がなくなることはないという。「ひきこもり中高年」「中高年ニート」の増加を食い止めるには、もはや国を挙げての対策が必要なのだ。
(文=中村未来/清談社)