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渡辺雄二「食にまつわるエトセトラ」

豊洲市場、広い範囲で発がん性物質検出…このままでは移転は困難

文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト
豊洲市場、広い範囲で発がん性物質検出…このままでは移転は困難の画像1豊洲市場(「Wikipedia」より/Syced)

 3月19日、豊洲市場の安全性を検討している東京都の専門家会議(座長=平田健正・放送大学和歌山学習センター所長)は、市場敷地内の地下水から環境基準を超えるベンゼンシアン、ヒ素が検出されたと発表しました。

 これは、敷地内の29地点で2回実施したもので、調べられなかった地点を除く27地点のうち、25地点で環境基準を超えるベンゼン、ヒ素、シアンのいずれかが検出されました。とくに問題になっているベンゼンの場合、最高値は1.0mg/Lで、環境基準(0.01mg/L)の100倍に達していました。この値を検出した地点は、前回の調査で環境基準の79倍に達していた所で、依然として汚染が続いていることが判明しました。

 ちなみに環境基準とは、人間の健康や生活環境の保全のうえで維持されることが望ましいとされる基準で、大気、水、土壌、騒音について、環境基本法に則って定められています。ただし、あくまでも「維持されることが望ましい基準」であって、いわば行政上の政策目標です。人間の健康などを維持する「最低限度の基準」ではないため、これを無視して強引に移転することは可能です。

 なお、シアンの場合は毒性が強いので、水に対する環境基準は「不検出」です。つまり、水の中にシアンが存在しないことが望ましいということです。ヒ素は0.01mg/Lで、ベンゼンと同じです。

 ベンゼンは、いわゆる「亀の甲」といわれる化学物質で化学式はC6H6です。比較的簡単な構造の化学物質で、無色の液体であり揮発性があります。ペンキ、インク、ワックスなどの溶剤として使われるほか、工業製品の原料としても広く使われています。また、ガソリンにも含まれています。

 ベンゼンは、人間にがんの一種の白血病を起こすことがはっきりわかっている化学物質です。ネズミやイヌなどの動物にがんを起こす化学物質はたくさん知られていますが、人間にがんを起こすことが明らかな化学物質は、それほど多くはありません。したがって、それだけベンゼンは要注意の化学物質なのです。

高い発がんリスク

 ベンゼンが人間に白血病を起こすことがわかったのは、20世紀前半のことです。靴製造が盛んだったイタリアでは、それに従事する人の間で白血病が発生しました。その原因として疑われたのが、にかわの溶剤として使われていたベンゼンでした。

 ベンゼンが脊髄に作用して貧血を起こすことは、すでに19世紀末頃には知られていました。そして1928年、フランスの研究者が、ベンゼンによると思われる最初の白血病の報告を行ないました。

 その後、イタリアでは白血病の患者が多く発生し、その割合は諸外国に比べて数倍も高いものでした。靴工場では、にかわを扱う職場の空気中のベンゼンの濃度が200~500ppmと高く、そこで働く人々が白血病になる確率は通常の人の20倍も高かったといいます。

 イタリア政府はベンゼンの危険性を懸念し、1963年以降、にかわやインクにベンゼンを使用することを禁止しました。なお、WHO(世界保健機関)の外部組織であるIARC(国際がん研究機関)は、「人に対する発がん分類」において、ベンゼンを「グループ1」の発がん物質、すなわち「ヒトに対する発がん性が認められる」化学物質として指定しています。

 実はベンゼンは、私たちが日ごろ吸っている空気中にも微量ながら含まれています。自動車の排気ガス中にベンゼンが含まれ、それが拡散しているからです。大気に対するベンゼンの環境基準は、1立方メートル当たり0.003mgです。

 水に対するベンゼンの環境基準は、体重50kgの人が、その濃度の水を毎日2リットル、70年間飲み続けた場合、10万人当たり1人にがんが発生するというものです。したがって、かなり厳しい基準であるといえます。

 豊洲市場を開設した場合、地下水を飲用や魚などの洗浄に使うことはなく、また食品を取り扱う建物は、コンクリートによって地下水と隔てられることになります。そのため、専門家会議の平田健正座長は、科学的には安全である旨の発言をしています。しかし、一般消費者としては、「ベンゼンなどの有害化学物質は環境基準以下であってほしい」と思うのは、致し方のないところでしょう。

 同市場の地下水検査は2014年から行われていますが、過去8回の検査では、ほぼ環境基準以下でした。ところが、今年1月に公表された前回検査では、201カ所中72カ所で環境基準を超えていました。その原因として、16年8月に本格的に稼働し始めた地下水管理システムの影響で、地下水の流れが変化したことが挙げられています。

 一般消費者や市場関係者からは、豊洲市場に移転することに対して反対の声が上がっていますが、それを鎮めるためには、ベンゼン、シアン、ヒ素などが環境基準以下になることが必要でしょう。それが可能かどうかはわかりませんが、そうならないと豊洲への移転は難しいのではないでしょうか。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

1954年9月生まれ。栃木県宇都宮市出身。千葉大学工学部合成化学科卒。消費生活問題紙の記者を経て、82年からフリーの科学ジャーナリストとなる。全国各地で講演も行っている

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