そして辿り着いたのは「吉野家 羽田空港第1ターミナルビル店」。空港内には、ほかにも有名チェーン店が軒を連ねており、飲食の選択肢は豊富なのに、なぜ筆者はわざわざ牛丼を選んだのか。それは、この店舗ならではのレアメニューがあると予習していたからにほかならない。
それは「和牛 牛重」だ。1240円(税込、以下同)という、まるで吉野家らしからぬ高級仕様のメニューで、国会議事堂内にある「永田町1丁目店」では販売されているのだが、国会関係者以外の一般人が食べるためには、この羽田空港店まで足を運ぶしかない。
だが、店外にあるメニュー表をチェックしても「牛重」は載っていない。あらためて調べ直したところ、同メニューを取り扱っているのは空港内の別店舗だと判明した。予習が不充分だったと悔やみながら1階まで下り、無料連絡バスを利用して国際線ターミナルへと移動した。
羽田空港限定グルメの牛重と天丼を堪能
国際線ターミナルに着くと外国人の割合が急激に増えた一方、空港内の「和」の装いが色濃くなっている。4階の「江戸小路」というエリアには提灯が吊り下げられ、天井には鯉のぼりもある。さらに、19世紀前半の東京・日本橋を半分のサイズで再現したという「はねだ日本橋」も架けられている。過去にタイムスリップしたかのような居心地になり、気分が高揚する。
目的地の「吉野家 羽田空港国際線旅客ターミナル店」も、江戸小路の一角にあった。店内に入り迷わず「牛重」を頼むと、店員から「ちょっとお時間をいただきます」と断りがあった。事実、筆者の後に入店した客の「豚スタミナ丼」のほうが先に提供され、「牛重」は調理に特別な手間のかかるメニューであることがうかがえた。
「牛重」が運ばれてきたのは、オーダーから約5分後だ。牛丼店のほかのメニューを基準にすれば、5分は長いほうだが、重箱をトレーに乗せて差し出されたら、この程度で文句をつける気は起きないだろう。
フタを取って実食すると、すき焼きのような味つけを施された肩ロースにごはんが進む。厨房担当のスタッフに「時間をかけてしっかりお肉を焼いてくれて、ありがとう」と感謝したくなるほどだ。店内にはフライト情報を示すディスプレイが設置されており、外国人客も次々と来店する。食事中に「ここは本当に吉野家なのか」と何度も疑ってしまう、不思議な体験となった。