夫に自分のコンプレックスと向き合う決意を告げ、破局の危機を脱したあらいさんは、めでたく結婚。しかし、コンプレックスを克服するのは容易なことではなかった。次に待ち構えていたのは、彼女が隠れビッチになった原因でもあるトラウマとの対峙だったという。
「自分自身を肯定する」ことで隠れビッチを卒業
親から虐待されて育つと自分も同じことをしてしまう「虐待の連鎖」を恐れていたあらいさんは、当初子どもを持つつもりはなかったという。
しかし、コンプレックスと向き合う覚悟を決めていたので、「私さえ強くなれれば虐待の連鎖は断ち切れる」と出産を決意。とはいえ、彼女にとって「親になる」のは、やはり大変なことだったようだ。
「絶対に父のようにはなりたくなくて、『いい親にならなきゃいけない』『赤ちゃんは大切にしなきゃいけない』と思っていたのに、全然うまくいかなかったんです。しかも、理想とする自分と現実のギャップに辟易していたときに、父のがんが発覚しました。父の余命というタイムリミットができたために、急いで答えを出さなくてはならなくなったんです」(同)
1人では自分を変えられないと考えたあらいさんは、自分なりの答えを出すために、いろいろな人に話を聞き、本を読むなど、視野を広げるように努めたという。
「私が見つけ出した答えは、『自分を肯定すること』でした。私自身が私を愛することでしか『愛されたい』というコンプレックスを満たすことはできない、とわかったんです。そこで、親としてダメな部分や愛されずに育って歪んでしまった感情も、自分の『伸びしろ』として認めることにしたんです」(同)
サラッと話すが、「愛されていない」というトラウマを持つ人が「自分を肯定する」のはかなり困難なことだったはず。あらいさんは「周囲の支えのおかげです。とても心強く励みになった」と語る。
「特に、夫には迷惑をかけましたね。でも、私が逃げたら夫も支えきれなかっただろうし、夫も私ががんばっているのを知っていたから、支え続けることができたのだと思います。……もし、そういう信頼関係を築ける人と出会っていなかったら、と考えると少し怖いです」(同)
隠れビッチとは、なんらかのコンプレックスを持つ女性が成長する過程の姿でもあるのかもしれない。
(文=真島加代/清談社)
『“隠れビッチ”やってました。』 一見すると清純派だけど、実は男にチヤホヤされたいだけのとんでもない“ビッチ”。周りに気付かれることなく粛々と男性を騙し続けた“隠れビッチ”である作者が、その生態を赤裸々に暴きます。