「病気」という概念を受け入れることで和解も
逮捕されると家族は面会に行かなければならないし、私選または国選の弁護士に弁護を依頼しなければならない。心理的に一番近い配偶者は、ショックで思考停止に陥り、患者の子どもや親が駆け回って対応するケースが往々にしてあるという。
大森榎本クリニックでみる限り、逮捕をきっかけに離婚するケースは2割ほどで、残りの8割はこれまでの家族のあり方を見直しながら夫婦関係を続けようとするという。そういった人たちの通う場所となっているのが、同クリニックで開かれている「クレプトマニアの家族のための家族支援グループ(KFG:Kleptomania Family Group-meeting)」だ。
「裁判が一段落して、執行猶予判決が出たり、略式起訴で罰金を払うことで終了したりすると、患者の家族も新たな日常を再構築していくことになります。専門治療の模索は裁判中から始まることも多いですが、果たして精神科に通わせる必要はあるのか、一方、もしクレプトマニアという病気であれば『治さなければならない』という気持ちの間で揺れ動くことになります。また、実刑判決が出た場合も、喪失感はありますが同様です。出所後、再犯しないためにはどのように治療を継続していけばいいか悩みは尽きません。
実際には、病気だったということがわかって、『それならば許せる』という気持ちを持つようになる家族は多いです。善悪の区別はつくが、特定の状況や条件化で万引きをしたいという衝動が制御できない病気だという概念を共有することで、家族が同じ方向を向き、和解するきっかけとなっていくのです」
クレプトマニアの家族、特に配偶者は、「本人がそのような行動を繰り返すのは自分のせいではないか」、あるいは「そのような人と結婚した自分の選択が間違っていたのではないか」などと、自分を責めがちだ。
クレプトマニアという病気について知ることは、家族にとってもひとつの救いになる。
(取材・文=里中高志)
斉藤章佳(さいとう・あきよし)
大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」(東京都)で、精神保健福祉士・社会福祉士として、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性依存・虐待・DV・クレプトマニアなどのアディクション問題に携わる。大学や専門学校で早期の依存症教育にも積極的に取り組む。講演も含め、その活動は幅広くマスコミでも取り上げられている。著者に『性依存症の治療』、『性依存症のリアル』(ともに金剛出版)、その他、論文も多数。