今年6月、「日本版GPS」とも呼ばれる人工衛星「みちびき」2号機を載せたH-2Aロケット34号機の打ち上げに成功したことが広く報じられました。「準天頂衛星」といわれる「みちびき」によって、位置情報などの精度が格段に向上し、将来的には誤差が数センチの世界になるといわれています。
この計画の画期的な点はどこなのか。また、私たちの生活はどう変わるのでしょうか。
今から7年前の2010年9月、「みちびき」1号機は400億円の開発費用を投じ、日本初の準天頂衛星としてH-2Aロケット18号機で打ち上げられました。
基本設計に三菱電機の汎用衛星規格(衛星バス)DS2000型を採用し、電子機器を搭載する本体部分の大きさは高さ6.2m×幅2.9m×奥行2.8m、打ち上げ時の重さは4.1tもあります。全長19mもの太陽電池パネルを優雅に展開する2翼式・3軸制御衛星です。
身近な存在になったGPSの問題点
「道は星に聞く」という車載機メーカーの衝撃的なキャッチコピーと共にカーナビからスタートした、衛星電波を用いて自分の居場所を知るシステム。今ではスマートフォンにも搭載され、私たちの暮らしのなかでも身近な存在となりました。
出張で見知らぬ土地を電車で移動する際、スマホの地図機能で自分の居場所が刻々と移動していくのを眺めて楽しんでいる人も多いのではないでしょうか。しかし、現在のシステムには問題点もあり、高層ビルの立ち並ぶ大都市の路地裏や山の中で自分の居場所を把握できなくて困ったという経験を持つ人もいるかと思います。
現在の位置情報システムは、アメリカのGPSシステムやロシアのGLONASSシステムの衛星電波を利用していますが、これらの衛星は常に移動しているため、時刻や場所によっては衛星からの電波を受信できなくなることがあります。
そこで、日本における車両の自動運行や位置情報を利用した高度な生活サービスを実現するために、日本専用の位置情報衛星をビルにも樹木にも妨げられない日本の真上に配置しようということになりました。しかし、衛星を日本の真上に配置するというのは簡単なことではありません。
静止気象衛星「ひまわり」は常に日本上空に位置しているので、「それと同じようにすればいいのでは」とも思いますが、静止衛星を配置できる軌道は、地上から見上げると約50度の高さ(仰角)しかなく、普通の住宅街でさえ衛星が見えないほど低い位置にあります。
さらに、日本は北緯30度から40度近辺に位置していますが、地球が衛星に与える引力と遠心力の関係で、衛星を真上に維持できるのは赤道上空に限られ、日本の上空で衛星を静止させることができないのです。
23年には「みちびき」7機体制、精度99.8%へ
そこで、複数の衛星で列を形成して日本上空を通過させることによって、擬似的に日本上空に常に衛星が配置される体制をつくろう、と考えて設計されたのが「準天頂軌道」です。
準天頂軌道は、日本からオーストラリアにかけての上空3万2000~4万kmを「8」の字を描いて、ほぼ24時間で衛星が一周する軌道です。
『宇宙と地球を視る人工衛星100 スプートニク1号からひまわり、ハッブル、WMAP、スターダスト、はやぶさ、みちびきまで』 地球の軌道上には、世界各国から打ち上げられた人工衛星が周回し、私たちの生活に必要なデータや、宇宙の謎の解明に務めています。本書は、いまや人類の未来に欠かせない存在となったこれら人工衛星について、歴史から各機種の役割、ミッション状況などを解説したものです。