この軌道上に衛星があれば、東京上空では1日のうち8時間は衛星を見通すことができます。計算上は、3機あれば24時間いつでも衛星からの電波を受けることができるようになりますが、さらに精度を高めるために、今年度中に追加の3機が打ち上げられ、最終的には2023年に7機体制となることが決まっています。
そして、7機のうち3機を見通すことができれば、正確な位置情報の取得率はGPS衛星のみの場合の90%から99.8%に向上するとされています。つまり、ほぼいつでもどこでも、正確な位置情報を得られるようになるというわけです。
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では、「みちびき」の準天頂衛星システムは、私たちの生活にどのようなメリットをもたらしてくれるのでしょうか?
すでに紹介した通り、いつでもどこでも正確な位置情報が得られるようになるのも大きなメリットですが、さらなるメリットとして、測位精度の向上があります。
「みちびき」には、3種類の精度情報システムが搭載されています。もっとも正確なシステムは測量誤差数センチ。もっとも精度の低いもので、現在のGPSシステムと同じ誤差10m程度です。
電波を受信する側も、それぞれの精度システムに応じた受信装置とソフトウエアが必要になるため、手元のスマホがある日いきなり数センチの精度で地図情報を示してくれるというわけにはいきませんが、パワーショベルのような建設機械では、すでに数センチ級の測位を行う運用試験を行っているものがあります。
地面を決められた形に掘る際、高精度の3D図面データをパワーショベルのコンピューターに転送し、衛星からの位置情報と照合しながらショベルを自動で動かすことによって、すでに数センチの精度で自動掘削が可能になっているのです。
ナビゲーションで特に期待されているのは、目の不自由な方の歩行ナビゲーションです。「横断歩道まで、あと65cmです」「右側30cmのところに点字ブロックがあります」というふうに正確なナビゲートが可能になることは、画期的な進歩だと思われます。
さらに、高精度の位置情報を取得しているスマホ同士が通信できるようになれば「前方右斜め前60cmに横断信号を待っている人が4人います」などと、まわりの状況を実際に見たように伝えてくれるナビゲーションも提供可能です。
また、農村のお年寄りなどに急増している“買い物難民”の解決策としても有効です。現在、無人機(ドローン)を使った商品配達サービスの検証が行われていますが、数センチの精度の飛行ができれば、「あのおばあちゃんがいつもひなたぼっこしている縁側に荷物を届ける」といったことも可能になります。
『宇宙と地球を視る人工衛星100 スプートニク1号からひまわり、ハッブル、WMAP、スターダスト、はやぶさ、みちびきまで』 地球の軌道上には、世界各国から打ち上げられた人工衛星が周回し、私たちの生活に必要なデータや、宇宙の謎の解明に務めています。本書は、いまや人類の未来に欠かせない存在となったこれら人工衛星について、歴史から各機種の役割、ミッション状況などを解説したものです。