――その医院、リピーターは多いの?
K 全然。何もわからずに来て、院長の人当たりの良さに騙された初産の人ばっかりや。2人目産む時はまず来んね。
――「院長に騙されて」とは?
K 見た目が優しそうなうえに、診察に来た妊婦さんに、『何かあったら、夜中だろうが、いつでも僕のところに電話してきたらいいよ』って自分の携帯番号を書いた名刺を渡すんよ。しかも、患者全員に渡しているくせに、『このことは、他の患者さんには言わないでね』って、特別意識を煽って信用を得よる。
帝王切開をしたがる産科の思惑
――ところで、その医院は、帝王切開の率が高いとか?
K 私の勤務期間は約8カ月だけど、その間、帝王切開じゃなかった患者さんは、たった1人。しかも、その人は、昔から住んでる、医院のご近所さんやった。
――医者が帝王切開をしたがる理由は?
K 金やん、一番の理由は。出産にあたっては、自治体や健康保険から出産一時金が42万円支給されるんだけど、帝王切開だと、追加費用が(その医院の場合は)60万円かかる。健康保険側は、42万もあれば出産できると想定しているんだろうけど、実際には、追加金が発生する場合がほとんどで、それでも約10万円ですむのが普通。けれど、そこの場合は、追加金がなんと60万円! 60万って、もう一人産める金額やで。退院間際に請求書を渡されて、患者さんも驚いてはるわ。みんなきちんと支払払って退院するけど、後で調べて「まともな産院じゃない」って思うんやろうな。2人目以降は戻ってこない。
――その追加金は自己負担?
K 高額療養制度を利用すれば、あとからほとんどのお金は戻って来るんだけど、とはいえ、一時的には自己負担になるし、この制度を理解していない人もいる。出産して、これからどんどん赤ちゃんにもお金がかかる時に痛手でしょう。なのに、師長がまた率先して帝王切開を薦めよるのよ。初産の場合、15時間ぐらい平気でかかるものなんだけど、院長も師長もはなから切る気でいるから、2〜3時間経過した時点で、師長が「先生、切りましょう」って。患者さんは事情が分からないし、赤ちゃんに何かあったら怖いから、しょうがないって応じる。患者の不安を煽るために、「分娩が停止してる」やら「赤ちゃんが反対に回ってる」やら嘘をついて切ることもある。
――医院の都合でそれは酷い。ほかにも、妊娠初期に不正出血で訪れた患者さんに、信じられないような対応をしているとか?
K まだ中絶が許されるような妊娠初期の場合の流産は、何しても阻止することができひんねん。それなのに、その医院は無理矢理入院を薦めて、毎日意味のない超音波、点滴、診療を繰り返すんだけど、(診療)報酬のためとしか思えない。一回、ある患者さんが、「上の子もいるから家に帰りたい、無意味な入院はしたくない」と退院を求めたのに、「一週間は絶対に退院させられない」と断ったこともある。
――週間の入院費はどのぐらい?
K 20万円超。その医院は、狭くて古くてトイレも付いてないけど、全室個室だから。部屋代だけで一日1万5000円も取るんよ。
Kによれば、似たようなトンデモ産科はほかにもいくらでもあるというが、それでは、なぜそんな医院に新規の患者が訪れるのか。それは、冒頭にも触れた通り、患者が病院の実態を知る術がないからだろう。
今回、Kが語ったような医院はかなり特殊であると思いたいが、全国的に見ると決して少なくないようだ。実際、彼女は「自分が産むならここが良い」と思える理想の産婦人科に出会うまで、5カ所も勤務先を変更してきたという。
次回も、同医院の“トンデモ医療”の告発が続く。
(文=花田庚彦/ライター)