近年ではダイバーシティ(多様性)への取り組みを掲げる企業が多いが、なぜ企業にとってダイバーシティは必要なのか。また、育児中の女性が働ける環境を整備することが、企業の成長にとっても、どれほど重要なのか。『働く女子のキャリア格差』(ちくま新書)の著者で、育休中の会社員のスキルアップや復職支援をする「育休プチMBA」代表の国保祥子氏(博士・経営学)に話を聞いた。
――一時、ダイバーシティが流行語になりましたが、本来、実力主義である人事に年齢、性別、国籍は関係ありません。企業において女性の戦力化が進むなか、ダイバーシティは企業経営にどのような効果をもたらすのでしょうか。
男女という性別の多様性をダイバーシティと呼ぶことは多いのですが、経営上で必要な多様性は、能力とスキルのダイバーシティです。年齢、性別、国籍などのダイバーシティは目的ではありませんが、能力とスキルのダイバーシティを目指せば、おのずと年齢や性別、国籍などの多様化もあがっていくのです。
――女性の特性について、こんな話があります。信用調査会社の調査担当者から聞いたのですが、女性の経営者は男性に比べて手形決済よりも現金決済を選ぶ傾向が強いため、倒産率が低いと。それだけ堅実なのではないかと推察できるというのですが、国保さんの見方はいかがでしょうか。
国保 まず女性経営者と男性経営者では、N数(サンプル数)が違いすぎます。働く女性のごく一部である経営者をピックアップして、男性経営者と比較することが果たして適切なことなのでしょうか。経営学者の間で男女の特性の違いが議論されることはありますが、その違いが生物学的な要因など先天的なものに由来するのか、それとも社会環境など後天的なものに由来するかについては、明確なエビデンスを出すことは難しいのです。したがって、経営学者として男女の違いに言及することには慎重にならざるを得ません。なお私は「女性」を取り上げて研究していますが、これは産育休という産む性である限り回避不能なキャリアのブランクが存在することが、キャリア観に与える影響に注目しています。