上司はロールモデルでもメンターでもなく……
働く目的や労働条件が多様化するなかで、上司と部下の関係が複雑になっています。雇われ方も、企業へのロイヤリティも、仕事を通して求める価値観も違うので、上司がロールモデルやメンターの役割を果たしにくくなりました。高度成長期の「カイシャ」なら上司は背中(自分の仕事のやり方)を見せて、ときに仕事に対する自分の思いを語るだけでもそれなりに部下を引っ張れたものです。
ダイバーシティの親展で企業は「適材」を確保しやすくなった一方で、職場の仲間意識や一体感が削がれやすくなりました。このような職場環境での上司の役割やあり方は喫緊の検討課題といえますが、上司の本音がわからないと気にしている部下のみなさんへのお答えは比較的シンプルです。
それは、部下にとって不都合だけど、上司にとって必要なことを想像するということです。
建前で隠す本音とは、往々にして誰かにとって不都合なものです。そして上司には管理職として企業から与えられたミッションがあります。そのミッションに基づく本音を言葉にすると、次のようにいえるでしょう。
「みんな文句を言わず働いてほしい」
「業務も勤務態度もきちんと自己管理をしてほしい」
「少々嫌なことがあっても嫌がらずやってほしい」
「企業も自分も尊敬してくれ」
最近は些細なことで「ハラスメント!」などといわれてしまうので、上司も厳しい態度でこのようなことは言いません。ですが、これらのことで気になることがあると上司は部下に対して評価的な視線、言い換えれば「本音のある視線」を向けることになります。
部下のみなさんにとってはロールモデルでもメンターでもない上司かもしれませんが、上司の本音も職場のダイバーシティのひとつと思って察してあげてください。ダイバーシティが機能する第1歩はお互いの違いを認め合い、尊重し合うことだからです。これだけでも、あなたの職場の居心地が少し良くなるかもしれません。
(文=杉山崇/神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授、臨床心理士)