「無痛分娩が普及している国の人たちを見ると、全体的に痛みに弱いケースが多く、また『痛いものは痛い』と素直に主張する傾向があると思います。一方、日本では出産に対して『痛みに耐えて産んで一人前』といった風潮があり、『お腹を痛めて産んだ我が子はかわいい』という声もよく聞く。しかし、無痛分娩だからといって、我が子に対する愛情の度合いが変わるとはとても思えません」(同)
この風潮は妊婦本人だけではなく、妊婦を取り巻く周囲も同様だ。原氏によると、「夫が無痛分娩という選択を理解してくれない」といったケースもあるという。夫が自分で出産するわけではないにもかかわらず、だ。
また、意外に多いのが、同じ女性である妊婦の母親が無痛分娩に反対するケースである。
「自分が自然分娩で出産して子どもを育てた経験があるため、母親には無痛分娩に対して肯定的ではない人がいます。しかし、今は40代で出産を迎える人も増えてきている。40代の娘に『私も自然分娩で産んだ』と言っても、20代で出産するのが当たり前だった世代とは明らかに条件が違うのです」(同)
病院側が無痛分娩に消極的な理由
さらに、妊婦自身や母親などだけではなく、病院側にも無痛分娩の導入に消極的な産婦人科があるという。
「医療施設が新たに無痛分娩を導入する場合、産婦人科医師、助産婦、スタッフを説得する必要があります。ところが、『これまで自然分娩でやってきたのだから』と、慣習的な面から無痛分娩に積極的でない助産師さんなどの医療関係者もいるのです」(同)
念のためにいうと、無痛分娩の導入にあたっては、高価な医療機器を購入するなど大掛かりなコストが必要になったりスタッフを大幅に増やしたりする必要があるわけではない。また、日本の硬膜外麻酔の技術がアメリカやフランスと比べて遅れているわけでもない。
「硬膜外麻酔そのものは、一般の手術などで昔から日常的に使われている方法なので、普通の医師なら誰でもできます。もちろん、無痛分娩に合わせた薬の種類や濃度を知る必要はありますが、多大な労力をかけて新たな技術を導入するというわけではありません。
出産の痛みを経験してみたい人は、自然分娩を経験するのもいいと思います。ただし、妊婦さんのなかには『1人目の出産が自然分娩でつらかったから、2人目は無痛分娩で』という人も多いのです。もし無痛分娩という選択肢がなければ、『つらい思いをしてまで2人目は産みたくない』という人も出てきます。そうなると、国としても大きな損失になるのではないでしょうか」(同)
政府は今、出産や育児を支援するさまざまな政策を打ち出している。それなら、出産方法の選択肢を増やすような環境づくりをしてもいいはずだ。
自然分娩か、それとも無痛分娩か――。もし、自分の家族が「無痛分娩で出産したい」と告げてきたら、あなたはどのような対応をするだろうか。
(文=喜屋武良子/清談社)