「ワクチン打ったら肩こりが治る」は本当?SNSで話題の”嬉しい副反応”を医師が解説
新型コロナウイルスのワクチンの接種が進むなか、副反応に対する不安が広まる一方で、むしろ喜ばしい副反応が出た人が複数いるとツイッターなどで話題になっている。
「ワクチン打った後、腕が腫れて熱をもったら、それまで酷い五十肩で上がらなかった腕が肩より上に上がるようになった」
「ワクチン打った後、肩こり治った」
このようなツイートが目立ち、長年の肩こりが治るかもしれないと期待を抱き、ワクチン接種に前向きになる声も上がっている。
医学的に見て、ワクチンで長年の肩こりが治るなとどいう可能性があるのか、予防医療研究協会理事長で麹町皮ふ科・形成外科クリニック院長の苅部淳医師に聞いたところ、瞬時にこのような答えが返ってきた。
「そんなことはありません!」
やはり、医学的根拠はないようだ。肩こりについてのツイートはワクチンへの恐怖を誘うものでないが、ツイッターなどのSNSには、「ワクチン忌避(ワクチンを怖がり拒否すること)」を量産する恐れのある“恐怖の副反応”のフェイクニュースが溢れている。
苅部医師も、そういった状況に医師として困惑しているという。
インフルエンサーの発言に注意
インフルエンサーの発言は、良くも悪くも影響力があるためネット上に広まりやすいが、鵜呑みにしないことが大切だろう。
「ワクチンのトンデモ論や不安を助長するような、まったく根拠のない説がSNSを中心に拡散されています。わたしも再三にわたり注意喚起してきましたが、やはり一部の人は信じてしまい、さらに拡散させてしまうようです。なかには人気YouTuberや有名医師が発信していることもあり、社会問題化しています」
フェイクニュースや根拠のない情報に惑わされないためは、ワクチンの仕組みや副作用をきちんと理解して、正しい情報を得ることが唯一の策である。
「どんなワクチンであっても、接種すれば接種部位の腫れ、赤み、筋肉痛、皮膚炎などが起き、軽い発熱やリンパ腺の腫れが出る方もいます。私自身も数日は熱っぽく、腕の腫れがありましたが、すぐに軽快しました」
多くの人が接種後に経験する副反応は、大きな健康障害を招くものではなく、数日で回復する。そういった副反応について、モデルナ社製とファイザー社製ワクチンを接種した被接種者における副反応を、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が4月5日に報告しているという。
「両ワクチンの副反応は接種の翌日にもっとも頻度が多く、モデルナ社製ワクチンのほうが頻度はやや高い傾向にあります。1回目接種においては、接種部位の疼痛がモデルナで約71%、ファイザーで約64%、倦怠感、頭痛、筋肉痛が両ワクチンとも約20%、悪寒や発熱がモデルナで約10%、ファイザーで約7%に報告されています」
ワクチン接種の翌日は安静を心がけることで、副反応があっても回復へ向かうという。
死亡との因果関係は不明
軽微な副反応が多いが、一方でワクチン接種後の死亡や重症化も報告されている。
「死亡や重症化については、明らかな因果関係はまったくわかっていません。日常生活の中では、さまざまな事象が偶発的に発生しています。ワクチン接種の有無にかかわらず、死亡や急病になることは、ある一定の数で起きており、接種の後に生じた事象も、それだけでは因果関係があるかどうかがわからないわけです。それにもかかわらず、SNSで見かける陰謀論や、不妊・流産が増える、遺伝子が組み替えられるなどといった、科学的・医学的知識が不足している”知識人”が誤情報を発信することは、大変危険だと考えます」
モデルナ社製ワクチンで肩こりが治るといった、まったく因果関係のない事象も発信を慎むべきではないか。また、このような情報を見ても、鵜呑みにしてはいけない。いずれにせよ、情報化社会の中で、正しい情報か否かは、一人ひとりが常に疑いの目を持って慎重に判断するしかないのだろう。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)