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渡辺雄二「食にまつわるエトセトラ」

高額な殺菌・消毒ボディソープは無意味?疼痛・かぶれ・水疱など皮膚障害の恐れも

文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト

人間と細菌やカビは共生関係にある

 また、全身の皮膚には表皮ブドウ球菌などの「皮膚常在菌」が、1平方センチメートル当たり10万個程度棲息しています。このほか、喉にはカンジタというカビ(真菌)などが棲息し、さらに口腔、鼻腔、眼、性器、尿路、肛門などにも各種の細菌やカビが棲息しています。つまり、人間の体は細菌やカビの巣窟なのです。 
 
 ただし、これらの細菌やカビは一定の数でとどまっており、異常に増えるということはありません。体に備わっている免疫の力によって、細菌やカビの異常な増殖が抑えられているからです。

 体に棲息するこうした細菌(常在菌)やカビは、免疫が正常に働いていれば、害をもたらすことはありません。つまり、体と細菌・カビは一定のバランスを維持しており、いわば共生関係にあるのです。
 
 ですから、このように人間の体と共生関係にある細菌やカビを「悪者」として排除しようとすることは無意味であり、間違った発想といえるのです。体のカビやにおいを洗い流すことを謳った薬用ボディソープや薬用液体石鹸のように、体を殺菌・消毒し、皮膚に棲息する常在菌を除去しようという製品は、間違った発想のもとに開発された、不必要なものなのです。
 
 そればかりか、有効成分が皮膚障害を起こす心配があります。

 有効成分のひとつである「ミコナゾール硝酸塩」は、水虫薬などに使われている化学合成物質で、真菌の膜を破壊して殺します。特に水虫の原因である白癬菌に効果があります。

 しかし、そうした効果の反面、皮膚を刺激し、発赤(赤くなること)、かぶれ、かゆみ、灼熱感、疼痛などの皮膚障害を副作用として起こすことがあります。
 
 また、別の有効成分であるイソプロピルメチルフェノールは、強い殺菌作用があるため、ハンドソープや薬用石鹸、デオドラント製品などに使われている化学合成物質ですが、これは接触性皮膚炎を副作用として起こすことがあります。接触性皮膚炎とは、化学合成物質が免疫などを刺激して起こるもので、発赤、水疱、かゆみ、痛みなどが主な症状です。

 これらの製品のボトルには、「使用中、かぶれたり、赤み、はれ、かゆみ、刺激等の異常があらわれた場合は使用を中止し、皮膚科の専門医に相談してください」という注意書きがありますが、副作用が現れる可能性があるからこそ表示しているわけです。
 
 カビや細菌をやたらと嫌う清潔志向が消費者の間で高まっており、そんな心理に巧みに付け込み、不必要で危険性があり、しかも高価なこうした製品が売られています。

 しかし、人間とカビや細菌は共生関係にあるのであって、そのことを知れば、そんな製品が無駄なものであることはすぐにわかるはずです。企業の戦略に乗せられて、不必要なものを買わされ、お金を無駄にしないよう、くれぐれも注意してください。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

1954年9月生まれ。栃木県宇都宮市出身。千葉大学工学部合成化学科卒。消費生活問題紙の記者を経て、82年からフリーの科学ジャーナリストとなる。全国各地で講演も行っている

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