女性の社会進出の幻想
確かに日本は、アメリカ、中国に続いて世界第3位の経済大国ではあります。一方で、貧困率も16%と、先進国のなかでもかなり高い数値となっているのです。経済協力開発機構(OECD)の平均貧困率は10%程度ですから、そうとう高いと言わざるを得ません。ひとり親世帯に限っていうと、OECD加盟国35カ国中ワースト1位という不名誉なデータもあります。所得が少なくなると、どこにしわ寄せがいくかといえば、食費なのです。安いものしか買わなくなる。いや、買えなくなるのです。それが、ひいてはどのような状況を招くのかということを、筆者は心配しています。
主婦の皆様は、普段の食生活で惣菜などを購入して食卓に載せることにも、ある種の罪悪感を持っていることがわかっています。その罪悪感を払拭するためか、買ってきた惣菜にひと手間を加えたものを「手づくり」と呼んでいる人もいます。なぜ惣菜を買うのかというと、そのほうが、相対的に食費が安くなると考えているからです。しかし、実際には間違いです。
筆者は、惣菜を買うこと自体をいけないと言いたいわけではありません。それが必要な時もあるでしょう。料理をつくる時間がなく、やむを得ず惣菜を食卓に載せることも認めなければいけないかもしれません。考えていただきたいのは、その背景です。
背景として挙げられるのは、女性たちも仕事を持つようになり、働く時間が増えたため、家事をする時間が減ったということですが、よく考えてみてください。女性が社会進出を果たしたというのは、幻想ではないでしょうか。本当に、女性は社会から認められ、必要とされて、適正に職業に就いているのでしょうか。筆者は、現状を見て、とてもそうとは思えません。もっと、それぞれの才能、特色を生かした働き方があってしかるべきだと思うのです。ひとつは、外に出て働いてお金を稼ぐことだけが仕事ではない、ということも言えると思います。問題は、何をもって仕事と考えるのかというところにあります。
医学部の入試をめぐる一連の女性に対する差別的な行為や、国会や都道府県議会における女性に対しての侮蔑的発言を、皆さんはどう捉えているでしょうか。健康であれば、毎月巡ってくる生理の日に、男性と同じように働くことが必要なのでしょうか。妊娠・出産の後、職場に戻りづらいという環境は、正当なものなのでしょうか。給与の差はあったとしても、同じように働いて帰ってきて、食事の支度をしたり、そのほかの家事をするという負担を一方的に女性が追わなければならないのは、いかなる理由があってのことなのでしょうか。
筆者は、まがりなりにも男性の一人ではありますが、そういった社会の中にある差別に対して、女性たちは今こそ立ち向かうべきだと考えます。そのために今、やらなければならないことは何なのか。それを考え、出た答えを実行していくことが大事だと、つくづく感じます。それは結局、社会全体を幸福に導くと考えるからです。
人間の男と女は、とてもよく似ているように思えますが、違う生きものです。種は同じですが、生きものとしては別と考えるべきでしょう。これは、決して差別などではありません。明確に区別して、お互いを尊重すべきだと言いたいのです。
料理のシステム化が幸福の礎
忙しい日々において、家庭の食事を女性が一手に担っているケースは多いですが、そんななかで“まっとうな”食事をするために必要なのは、家庭料理をシステム化することなのです。システムになっていれば、その一部をほかの人(たとえば夫などパートナーや、別の家族)が担うことも可能になります。システムになっていることで削減できる経費も、たくさんあります。
それよりも大切なのは、家庭料理をシステム化することで、女性たちは食事の準備に罪悪感を持たなくてよくなることだと思うのです。そしてそれは、食を単なる消費に終わらせず、自分や家族への投資にするという基本的な考え方に進展していきます。だからこそ、リーダーシップをとって、女性たちが家庭料理をシステム化することに努めていただきたいと筆者は考えています。そして、男性方には、それに協力していただきたいのです。それが幸福の礎になると確信します。
筆者は、そのような考えを、多くの方々にご支持いただけるよう、今年もがんばっていこうと、心に決めております。
今年の暮れには、家庭でつくれる、おいしくて安心して召し上がれる「おせち料理セミナー」を開催できるといいなぁ、などと夢想しております。できれば女性だけではなく、男性方にも多くご参加いただきたいと思います。そして、皆さんのご家庭から、「かずかずおめでたい~」「まめでたっしゃで~」「よろこんぶ~」という声が聞こえてくることを願っています。
(文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事)