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堀田秀吾「ストレス社会を科学的に元気に生き抜く方法」

あなたをイラつかせる“ネガティブな人”への正しい対処法、間違った対処法

文=堀田秀吾/明治大学法学部教授
あなたをイラつかせる“ネガティブな人”への正しい対処法、間違った対処法の画像1「Gettyimages」より

 厚生労働省が行った労働安全衛生調査(実態調査・平成29年)によれば、現在の仕事や職業生活で強いストレスになっていると感じることがあると答えた労働者の割合は58.3%で、その強いストレスの内容において、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」は第3位、30.6%と大きな割合を示しています。社会で働いていると、明るくお喋り好きな人、冷静で落ち着いた人など、さまざまなタイプの人がいます。そして、そういったあらゆる人たちとうまく付き合っていくことが求められます。

 対人関係のストレスでイライラすることもあるでしょう。しかし、イライラ、すなわち「怒り」という気持ちは、身体にとっては有害で、血圧、頭痛、血行不良を生じさせ、心臓疾患や脳梗塞などの疾病のリスクを高めることになります。さらに、ロンドン大学のレインらの研究では、たった5分間の怒りの感情が、なんと6時間にもわたって免疫を低下させるということが明らかになりました。インフルエンザや風邪も流行しやすいのに、仕事が忙しくなるこの季節、免疫が下がってしまうのはなんとか避けたいところ。

 しかし、そうありたいと願いつつも、人間ですから、誰とでもうまくやれるなんて、なかなかできません。なかでも、「ネガティブな人」を苦手だと思う人は少なくないのではないでしょうか。成功している経営者など、社会で活躍している方たちの話を聞いてみると、運気を持っていかれるので、ネガティブなオーラを持った人とは付き合わないようにしているとおっしゃる方もいます。

 ネガティブな人と一緒にいると、不平不満やマイナスの話を耳にすることが多くなり、自分自身も嫌な気持ちになったり、イライラしてくることがあります。また、ネガティブな人の意見を聞いているうちに、自分までネガティブになってしまったり、会話をしたあとはなんだか仕事も気分が乗らなくなったり、うまくこなせなくなったり。そんなことって、ありますよね。

 大阪大学の苧坂らの研究では、ネガティブな気持ちは、注意力の低下を招くことを脳科学的実験で証明しています。ネガティブな気持ちが起こると、ポジティブな気持ちに戻そうと脳ががんばるので、脳のリソースを多めに消費します。結果、注意力のために使う脳のリソースが減り、注意力が低下するわけです。注意力が下がると、仕事に支障が出てしまうこともあるでしょう。ですから、ネガティブな気持ちにさせるような人との関わり方には注意しなければいけません。

バックファイア効果

 では、ネガティブな人にはどう対処したらいいのでしょうか?

 ネガティブな人の言動に堪りかねて、私たちがその人につい言いがちになるのは、「もっと前向きに考えなよ」というアドバイスです。しかし、実はこれ、ネガティブな人をもっともっとネガティブにしてしまうセリフだったのです。

 アメリカのミシガン州立大学の心理学者モーザーによる研究によると、悲観的な人は「前向きに考えて」と言われれば言われるほど、自分の中で混乱し、さらにネガティブになってしまうということがわかりました。

 この研究では、まず71人の女性を被験者として、自身がポジティブかネガティブかを自己申告してもらいました。その後、被験者の脳をスキャンして、覆面をした男が女声の喉にナイフを突きつけている映像を見せました。そして、その映像についてポジティブな解釈をするように指示を与えたのです。

 この一連の課題の間の脳の活動を調べたところ、ネガティブであると自己申告した人は、ポジティブだと自己申告した人よりも脳の反応が大きくなったのです。そして、ネガティブグループの人に対してもっと前向きにポジティブに考えるよう指示を出したところ、脳の反応がさらに大きくなったのです。

 この研究から、ネガティブな人にポジティブなアドバイスや励ましをすることは、かえって彼らがネガティブ・ループに陥る助けになってしまうということがわかりました。人間には、自己の意思を否定する情報を突きつけられると、より自己の意思を強く信じるようになります。これを「バックファイア効果」といいます。この実験では、被験者自身がもともと持っていた「ネガティブな反応」と反する反応を無理矢理生じさせようと努力をした結果、脳の感情を司る部分が活性化し、バックファイア効果が生じたわけです。

多様性を楽しむ心の余裕が大切

 他人の行動を変えさせるよりも、自分の行動を変えるほうがはるかに楽です。また、いちいちそういう人に立ち向かったり、改善を促すように働きかけるというのは、自分自身の精神衛生のためには好ましくありません。

 ですから、ポジティブな人は、ネガティブな人の考えを否定したり、アドバイスしたりせずに、自分にとってストレスのない考え方、適度な距離を保つような付き合い方をすることが、対人関係のストレスが上がらないようにする秘訣です。ネガティブな人を避けろと言っているのではありません。相手に入り込まずに付き合うのが良さそうだということです。

 以前も触れましたが(リンクについては下記参照)、イライラは感情ですから、感情を抑えるには前頭葉を働かせることで抑えられます。前頭葉を働かせるためには、論理的にものを考えることが効果的。ですから、イライラさせてくる相手のことを、「どうして、何が、そんなにイラつかせるのか_?」などを論理的に考えてみたりするのも良いかもしれません。

 世の中にはいろいろな人がいます。嫌な人もいます。しかし、いろいろな人がいるから、いろいろなものの見方が生まれて、新しいものが生まれたり、社会が改善されていくのも事実。そういう存在も「必要悪」なのかもしれないと、その多様性をむしろ楽しむような心の余裕を持つことも大切なのかもしれません。
(文=堀田秀吾/明治大学法学部教授)

●イラっときてしまった場合の自分の感情の対処方法については、過去の連載記事を参照

堀田秀吾/明治大学法学部教授

堀田秀吾/明治大学法学部教授

 専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、神経言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学など様々な学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。

Twitter:@syugo_h

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