私は産業医として年間1000人以上の働く人と面談をしています。近年企業で働く人の3人に1人が過去3年間にパワハラを経験しているといわれていますが、産業医面談でのパワハラの相談も増えています。そして、パワハラは単に被害者のダメージだけでなく、たとえ会社が上手に対応したとしても、最終的に被害者・加害者・会社の3者全員の納得や満足を得ることは難しく、本当に誰のためにもならないことを実感するばかりです。
なぜならば、勇気を出してハラスメントを報告し、それがたとえ公平に調査されたとしても、判定が黒とならずにグレーとなる場合が多々あります。仮にハラスメントがあったと認められても、被害者の思い描くような処罰(多くは懲戒解雇)が加害者に課されるとも限りません。ハラスメントがあったと認められたケースでも、被害者が精神的体調を崩し休職となるケースも、しばしばあります。
そのようななかで個々人ができることは、パワハラがひどくなる前に自分で対処するにつきます。今回は、あなたがハラスメントから身を守るための処方箋を3つ提供させていただきます。
ルールの確認・仲間をつくる・記録
まず、最初の処方箋は、会社のルールを確認することです。
職場は仲良しグループではなく、いろいろな人がいます。他人同士が共通の目的のために集まる組織では、そのためにルールがあります。あなたの会社のルール、 就業規則やハラスメントに関するポリシーなどをぜひ一度ご確認ください。
そして、そのルールに納得できる会社で働きましょう。ルールがない会社で働き続けるか否かは、誰のせいでもなく、あなた自身の選択です。
2つめの処方箋は、軽度なハラスメントから身を守るための処方箋です。それは、我慢をしないで仲間をつくることです。
ハラスメントを受けたとき、我慢していつも黙っていると、相手はますますエスカレートします。ですので、ぜひ我慢せずに、あなたの感情を表現してみましょう。「これってハラスメントですよね」「そんなことを言われると泣きたくなります」、もしくは実際に涙を流してもいいと思います。自覚なくハラスメントをしている人には、効果的です。
それができない場合はぜひ、自分の気持ちを打ち明けられる信頼できる仲間(人間関係)をつくりましょう。辛い気持ちを聞いてもらうだけでラクになるはずです。しかし、それで終わらせるのではなく、ぜひハラスメントをしてくる人(多くは上司)について、教えてもらいましょう。敵(上司)を知ることは、古来からあらゆる戦いにおいて有効とされています。相手について、どのような人なのか、何に怒りやすいのかなども教えてもらいましょう。その上で、自分がその上司だったら? という視点でぜひ考えてみてください。何か対策が見えてくるかもしれません。