3つめの処方箋は、前述の処方箋が効果なく、ハラスメントが継続的に続く場合、重篤化する場合への処方箋です。
まずは、身を守るために記録をつけましょう。社内規定に注意しつつ録音・録画、メールなどの印刷・保存など、いつどこでどのようなハラスメントを受けたか、しっかり記録しましょう。その場面に居合わせた人についても、メモしておきましょう。のちのちの調査に役立ちます。
ハラスメントにはひとりで対処せずに信頼できる仲間を見つけて相談することは述べましたが、陰湿なハラスメントや解雇やお金が関係する場合は、労働組合などを通じて会社に伝えることも効果があることもあります。
組織運営や企業文化の課題
以上の3つの処方箋が役に立たないときは、最後の手段になります。
会社がすべてではないことを自覚し、オフタイムを充実させましょう。会社の外に情熱をかけることがあれば、会社のことなど気にならなくなることも多々あります。それでも辛い場合は、その会社を辞めてしまいましょう。繰り返しますが、会社はあなたの人生のすべてではありません。もしくは、もっと仕事に精進し実力を今以上につけましょう。実力や実績のある人になれば、誰にも文句は言われません。
ハラスメントを受けると、がんばっている人ほど自分が認められていないと傷つき落ち込みます。そして、認められていないということ自身が孤独感を高め、他人に相談できなくなり、自分の存在価値を必要以上に落とし(自己肯定感の低下)てしまうのです。それが、自分への否定、現状への否定、精神疾患を発症させるきっかけとなり、ひどい場合には自殺に至るのだと考えられます。
実際に私は、メンタル不調による休職者との産業医面談のなかで、ハラスメント被害を言い出せず、それが影響してメンタル不調になってしまった方を多数知っています。
職場におけるハラスメント問題は、解決策が簡単には見つかるとは限りません。厳格な処罰や、被害者への思いやりの言葉だけでは片付けることのできない課題です。この問題への対策は、決して犯人探しではなく、組織運営や企業文化の課題として扱われるべきです。人事労務に携わる人、いやすべての働く人にもう一度、ぜひ職場で話し合っていただきたいと思います。
(文=武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事)