パーソナルトレーニングでは、お客様のニーズはさまざまだ。結婚式に向けてのダイエットや健康増進、アスリートのリハビリ……そのなかのひとつに、「婦人科医からの推薦」がある。その“推薦”理由は、PMS(月経前症候群)、生理不順、ストレス、更年期障害などの症状改善から妊活まで、多様だ。
今回は、パーソナルトレーニングによる「妊活」を紹介したい。パーソナルトレーナーである筆者は、不妊治療を行っているある女性を担当した。その結果、4カ月ほどのトレーニングと食事指導で、体内環境を整えたことで妊娠に至った。もちろん、不妊に悩むすべての人が妊娠するわけではないが、生理周期を安定させて妊娠しやすい体に整えることには有効だ。
筆者はこれまで1400人を超える女性をトレーニング指導してきた。その上で、運動や食事などの生活習慣の改善は、「ホルモンバランスを整える」のに有効だと断言できる。
2種類の女性ホルモンの特性がポイント
女性ホルモンには、「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の2種類がある。エストロゲンは、肌や髪、爪などの新陳代謝を高め、血管の弾力を保つなど「美を司る」働きも持つ。卵巣の卵胞や黄体以外にも、体内の脂肪細胞からも分泌される。ちなみに、エストロゲンは骨の形成にも関係し、骨密度の維持にも役立っている。高齢女性に多い骨粗鬆症の原因のひとつにエストロゲン不足が挙げられるのは、この理由による。
一方、プロゲステロンは「妊娠を司る」。卵巣の黄体から分泌され、妊娠後は胎盤から大量に分泌される。受精卵を守ったり、着床や発育をサポートするなど、妊娠維持のための環境づくりが主な働きだ。特に葉酸や鉄、亜鉛などの摂取と関連性が高い。つまり、プロゲステロンの分泌と栄養バランスは密接な関係にある。そして、妊活にはプロゲステロンの円滑な分泌が不可欠だ。
女性の生理周期には、この2つのホルモンの分泌が大きくかかわる。そのサイクルは、月経期、卵胞期、黄体期(前期・後期)の4つに分かれる。妊活には、妊娠(着床)につながりやすい黄体期間での過ごし方が重要だが、この時期は心身ともに不安定でPMSも起こりやすい。
この時期にオススメしたいのは、糖質制限食だ。血糖値の乱高下を防ぐことで、うつ症状をはじめとする精神的な不安定さを改善できるからだ。筆者の顧客にも、黄体期の血糖値調整で月経期のつらさが軽減した人は多い。
脳が女性ホルモン分泌の司令塔
エストロゲンとプロゲステロンの分泌をコントロールするのは、卵巣ではなく脳だ。脳からの指示がスムーズに情報交換されていれば女性ホルモンの乱れは起こらないが、この回路はとてもデリケートで、さまざまな要因によって不調を来すことがある。
不妊をはじめホルモンバランスの崩れに悩む女性には、大きく分けて「高ストレス、低栄養、高糖質、少運動、更年期」の5つの理由が考えられる。個人差はもちろんあるが、いずれも生活習慣を変えていくことで改善の可能性は高い。
具体的には、「睡眠・運動・食事」の3つのアプローチがある。
(1)睡眠
睡眠時間は7時間をキープし、休日も同じ起床時間を心がけること。睡眠が十分でないと、エストロゲンとプロゲステロンの分泌信号は正しく卵巣に到達しない。研究によれば、適切なホルモン分泌の情報伝達には、7~8時間の睡眠が必要とされている。
(2)食事
朝食は必ずとること。朝食を抜けば昼食まで“飢餓状態”だ。そこに糖質量の多いオニギリなどを食べようものなら、血糖値は急上昇する。実例として、強度の生理痛とPMS、軽度のうつ症状に悩んでいた女性が、朝食をとる食生活に変えてから2カ月後、すっかり症状が治まった。朝食は、ゆで卵やオムレツなどの卵料理、スープ、野菜に大豆製品、チーズなど簡単なものでいい。一日の始まりをカラダに合図する。驚くほど女性ホルモンバランスの改善につながる。
(3)運動
運動習慣がないと筋肉量は低下して代謝が落ち、血管も細くなってしまう。前述の女性ホルモンは血流に乗って卵巣にまで届くため、体内の血流が停滞すれば、おのずとその働きは衰える。また、ヒトは身体を動かすことで、下垂体から成長ホルモンを分泌し筋繊維の修復や整腸などが促される。運動によって血管自体が太くなり、関節や筋肉を動かして血流を促進させると、下垂体の活性化につながるのだ。
筆者の経験上、妊活において鍛えてほしい筋肉は、主に「骨盤底筋」「内転筋群」「腸腰筋」の3つだ。骨盤周りの血流を促進する代表的なものとして、「スクワット」をオススメしたい。
スクワットは、全身の血流を促すにはもってこいだ。正しいフォームで行えば股関節の屈曲・伸展も十分だ。
ポイントは、上半身が前かがみにならないようにして、膝はつま先と同じ方向を向ける。ゆっくりとした動作で「20回×3セット」を目安にしよう。
男性にも効果アリ!パートナーとの実践で効果は倍増
当たり前だが、妊活には男性の努力も必要だ。パートナーの協力があってこそ、大きな成果が得られる。実は、これまで述べてきた体を整える習慣は、男性機能にも良い影響を及ぼす。
タンパク質、ビタミンB群、鉄を充分に摂ると代謝や造血機能がアップして、いわゆる「男性らしさ」を促す。さらに注目したいのが、別名「セックスミネラル」とも呼ばれる亜鉛だ。男性機能の向上、造血作用にも深くかかわっている。牛肉や豚レバー、牡蠣、納豆などに豊富に含まれている。
先のスクワットも、太ももやお尻の“大きな筋肉”を鍛えることで男性ホルモンの分泌が促進される。下半身を積極的に動かすことにより、体の血流が良くなり、ホルモンの働きに好影響を与える効果も期待できる。
妊活だからといってパートナーと違った食生活や生活習慣にする必要はまったくない。むしろ二人三脚で生活習慣を改善することで効果も出やすい。
妊活は当事者にとって切実なものだ。今回のアドバイスは、アプローチの一面に過ぎないかもしれないが、妊活に取り組む方々への一助となれば幸いである。
(文=今野善久/パーソナルトレーナー)