証人尋問は双方の主張が出そろい、争点の整理も終わり、最後の仕上げの段階で行われるものだ。ゆえに裁判の途中経過を知りたければ、事件記録を閲覧するしかない。
改正前も、基本的に「陳述します」という言葉しか発しないので、傍聴していてもちんぷんかんぷんではあったが、まれに争いの内容をうかがい知ることができるようなやりとりもあったので、途中経過がまったくわからない現在よりはマシだったといえる。
第2期の第2話において、法廷で古美門が若手実業家・鮎川光(佐藤隆太)と一騎打ちになるシーンが出てくるが、法廷であれだけやりあってくれたら、傍聴人は事件の内容や双方の主張が明確にわかる。現実もああなってほしいとは思うが、実現の可能性はゼロに等しい。
●ドラマではホワイトボード、フリップ、パワポを駆使
『リーガルハイ』では、ほぼ毎回といっていいほど、法廷で弁護士がホワイトボードやフリップボードを使用して説明したり、パワーポイントを駆使して作成した資料をモニターで流す場面が登場する。
だが、現実の法廷ではホワイトボードもフリップもモニターも、絶対に使用されることはない。すべては証拠書類として紙に落としたものを裁判所に提出する。唯一の例外が裁判員裁判で、証拠説明のために法廷内に設置されたモニターが使用されている。
スペシャル版において、不動明王の落書きオヤジの裁判でもモニターが使用され、第2期の第3話では、全身美容整形妻と夫の遺伝子が組み合わさった場合の生まれてくる子供の顔のシミュレーションを、巨大なフリップで説明する場面があるが、どちらも本来なら紙に落として提出するべきものだ。
立体的なものなど紙以外の証拠を提出する必要がある場合は、まず写真を撮って台紙に貼り付けて提出し、後から現物を相手方や裁判官に見せるという手順になる。
ドラマのように、傍聴席にいる傍聴人にもわかるような証拠説明をしてくれれば、願ったりかなったりだが、これもまた実現の可能性はゼロに等しい。
ちなみに、裁判所に提出する証拠書類には番号を付与する。民事の場合は、原告提出の証拠を「甲号証」と呼び、提出順に番号をつけて甲1号証、甲2号証などとする。刑事なら検察側の証拠が「甲号証」。対して、被告側が提出した証拠は「乙号証」だ。『リーガルハイ』の作中では、一度も「甲号証」「乙号証」という言葉は登場していない。
●非現実的な什器備品
法律業務は膨大な量の紙を使う。ペーパーレスが叫ばれて久しい現代においても、裁判所に提出する資料はすべて紙。相手方の弁護士等とのやりとりで、「とりあえず」程度にFAXやメールを使うこともあるが、正式なものは結局紙を使う。しかも、1回に提出する書類は、数十ページに及ぶことはざらにあり、時には100ページを超えることもある。民事と刑事で比べると、使用する紙の量は圧倒的に刑事のほうが多い。人に刑事罰を科そうというのだから、証拠資料が分厚くなるのは当然だからだ。刑事よりは少ないとはいえ、民事でも紙の量はかなり多い。
弁護士事務所は、手掛けた事件の記録を保管する書庫を持っている。各事務所によって多少は異なるが、事件終了から最低10年間は資料を保管するため、大きな書庫と膨大な量の書類作成に必要なパソコンなどの機器、それに大きなコピー機くらいなければ、まったく仕事にならない。だが、古美門事務所には大きな書庫も、コピー機もなさそうだ。
「細かい書類作成はすべて黛先生」といったセリフが出てくるが、弁護士が事務仕事を全部引き受けていたら、弁護士としての仕事が回らなくなる。こまめに毎食豪勢な料理をつくっていると見られる服部(里見浩太朗)が書類をつくるような場面も、ついぞ登場しなかった。
最終回で、服部が書類作成を引き受けているようなセリフがあったが、その肝心の書類が画面に出てこなかったので、実際のところはわからない。