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ここがヘンだよフジ『リーガルハイ』~法廷での激しい応酬や振る舞い、不意打ちの新証拠

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●立ったままの証人、証人の真横に立つ検事、弁護士

 毎回のように登場する証人尋問のシーンも、現実とはだいぶ違う。ほぼ全話にわたって、証人が立ったまま証言をしているが、実際の裁判では、最初の宣誓だけは立ったまま行うが、尋問の時は着席させている。

 弁護士検事の立ち位置も、実際とはだいぶ違う。これもほぼ全話にわたり、古美門をはじめ、黛、三木長一郎(生瀬勝久)、羽生晴樹(岡田将生)、本田ジェーン(黒木華)といった弁護士たち、そして醍醐実検事(松平健)も、みんな証人の真横に立ったり、証人の周りをぐるぐる歩いたり、顔を近づけたりかがみ込んだりしている。第2期の第1話に至っては、古美門が被告人・南風るんるん(小島藤子)の両腕をつかんで揺さぶったりしている。

 現実には、質問のために証人に証拠書類を提示する場合以外は、弁護士も検事も自分の席を離れてはならない。証拠を提示した時も、即座に席に戻ってから質問を開始しなければならない。

 これは極力証人にプレッシャーを与えないためのルールなので、守らない検事や弁護士に対しては、裁判官が注意すべきものとされている。

 だが、実際の法廷でこのルールが厳格に守られているかというとそうではない。筆者はかつて執筆した記事で名誉毀損訴訟を起こされたことがあるが、その1審の証人尋問の場で、筆者の代理人だった弁護士のうちの一人は、尋問の最中に高らかないびきとともに爆睡していた。この裁判、実は原告は弁護士だった。悪徳弁護士の不正を批判する記事を書いたら訴えられたのだ。何しろ弁護士なので代理人を雇わない本人訴訟だった。そして筆者への尋問も本人がした。

 当の原告は逆上していたので、興奮で眼鏡は曇り、顔面にはぽたぽたと垂れるほどの汗。尋問もおよそ冷静な質問とはいえないものだった。筆者は着席していたが、原告は真横に立って筆者を見下ろし、頭の上から大声で怒鳴り続け、汗や唾が容赦なく筆者にふりかかった。それにもかかわらず、こちら側の弁護士は、一人がいびきをかいて爆睡、他の弁護士もそれを注意もせず、異議を唱えることもなく見ているだけ。裁判官も一切注意をしなかった。

 弁論準備で代理人弁護士がさんざん手を抜き続けた結果、裁判官の筆者に対する心証は、「いい加減なことを書いた上に、まじめに反論もしようとしない、法廷を冒涜する悪徳ジャーナリスト」として形成されていたからかもしれない。そんなわけで、この尋問後、筆者は1審で完敗し、判決文にも筆舌に尽くしがたい屈辱的な表現を書き並べられたが、弁護士を替えた控訴審では、初回の弁論の数日後、原告が請求を放棄した。

 裁判が始まると、原告は被告の同意なしには訴えを取り下げることができないので、被告が同意しない場合に訴訟をやめるためには、請求を放棄するしか手段はない。請求放棄とは、原告が自分の負けを認めることであり、被告側にとっては全面勝利になる。

●民事の尋問はセレモニーのようなもの

 尋問の際に、突然新たな証拠を出し、それに対する質問をするという、いわゆる“不意打ち”も現実では禁止されている。相手に防御の準備期間を与えることは裁判の大原則であり、尋問に使う証拠書類はあらかじめ裁判所に提出しておかなければならない。

 また、違法な手段で入手した証拠も、証拠として裁判所に採用してもらうことはできない。

 第2期の第3話で、黛の高校時代の同級生の熊井健悟(塚地武雅)が、妻は全身整形していたという事実を知り、騙されたとして妻を訴えた裁判で、尋問の場でいきなりハゲ治療の診断書を被告弁護士の羽生から突きつけられるシーンが出てくる。

 そもそもハゲ治療の診断書を、本人の同意なしに第三者が入手することは不可能だが、例えば担当医師やクリニックのスタッフを脅迫したり買収したり、あるいはクリニックに忍び込んで盗み出すなどして入手したのなら、それは違法な手段で入手したものであり、証拠としては認められない。

 原告、被告双方が出す証拠は、なんらかの立証目的があって出すものだし、その説明に合理性がなければ裁判所は証拠として採用しない。証人についても、申請さえすれば誰でも法廷に呼べるというものではない。証人に何を証言させるのかを説明し、裁判官が納得しなければ尋問はおろか、証人を呼び出すことすらできない。

 第1期の第10話で、有害物質ヘルムート38の発見者であるヘルムート・マイヤー博士(Otto)が証人として法廷に現れて古美門が驚くシーンがあるが、事前に誰が証言に立つか知っているはずなので、現実から考えるとおかしい。公判当日、傍聴に来ている人をいきなり証人申請し、それが認められ、すぐ尋問に移るなどということもありえない。

 民事の場合は事前に陳述書として証人の話をまとめておき、尋問はその内容確認のために行うセレモニーのようなものになる。証人として呼ぶ人物が決まったら、証人に陳述書を書かせて証人が証言する予定の内容を原告側、被告側双方が共有する。

 尋問は被告側の証人なら被告代理人だけでなく原告代理人から、原告側の証人なら原告代理人だけでなく被告代理人から反対尋問を受ける。従って、尋問の場で相手方からどういう質問が飛び出すのかは、提出済みの証拠と立証趣旨を理解し、陳述書を読んでいれば、十分に想定ができる。

 有能な弁護士なら、反対尋問で聞く内容を準備するだけでなく、その想定に基づいて証人本人にリハーサルまでさせる。弁護士が相手方弁護士役を演じ、さんざん証人が嫌がる答えにくい質問を証人にぶつけ、それに対してどう答えるか、どういうリアクションを取るべきかまで教える。

 依頼人以外の第三者を証人に立てる場合は、リハーサルに付き合ってくれるようお願いしなければならないわけだが、依頼人本人にすら尋問のリハーサルをしない場合、それは明らかに手抜きだといえる。

『リーガルハイ』では全般に、当然反対尋問で聞かれることは想定できたであろうと思われる質問に、古美門側の証人が動揺し、答えられないシーンが随所に出てくる。敏腕とうたわれる古美門ほどの弁護士が想定問答もつくらず、リハーサルもやらないというのは役柄のイメージにも合わないところだ。

 ちなみに刑事の場合は、検察側の取った調書が証拠として提出され、その確認のために尋問が行われるわけだが、ここで調書の内容を否認するというケースはしばしば起こる。そうなった場合に法廷での証言と調書、どちらに信憑性があると裁判官が判断するかと言えば、現状では圧倒的に調書で、法廷での証言は判決文には「信用できない」と書かれることが多い。

BusinessJournal編集部

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