世界経済の情勢が不透明感を強め、国内の景気も落ち込んでいるなかで数カ月後には消費増税するということは、常識レベルでも私たちの生活を直撃することは目に見えている。
しかし、財務省という硬直化した官僚組織にはそのような常識は通用しない。あくまでも消費増税を完遂するのが、この組織の目的である。最近は「財政危機」という理由だけではなく、むしろ消費増税以外の経済政策は害悪である、という宣伝まで始めたようである。
特に財務省がイメージ戦略のターゲットにしているのが、MMT(現代貨幣理論)への批判だ。このMMTは積極的な財政政策の拡大を主張していて、財務省の消費増税の方針とは真逆に位置する。もちろん以前から日本に積極的な財政政策を採用するようすすめる経済学者やエコノミストは多い。一例では、元IMF(国際通貨基金)のチーフエコノミストのオリバー・ブランシャールらが、日本に積極的な財政政策を採用するようにすすめたことは記憶に新しい(ブランシャール、田代毅「日本の財政政策の選択肢」2019)。
ブランシャールだけでなく、従来から欧米の経済学者たち(ポール・クルーグマン、ジョセフ・スティグリッツ、トマ・ピケティら)は一様に積極的な財政政策の採用をすすめていた。また日本でも二十数年にもわたり、長期停滞の脱却に金融政策と財政政策の両輪で積極的に対応するように求めるリフレ派がいる。筆者もそのリフレ派の一員である。
だがMMTと、彼ら欧米の経済学者やリフレ派には違う点がある。ひとつは、MMTには理論的な基礎がはっきりしない点がある。いくつかの断片的な言い切りや拡張的な財政のスタンスのみが強調されていて、実際に日本でのその同調者たちを含めてMMT側から具体的な理論モデルが提起されていない。
この理論的な脆弱性(知的不誠実性)を、日本の財務省が突いてきている。なぜかというと、MMTを批判することで、イメージ的にリフレ派や欧米の財政拡張論者の主張も一緒に「理論的な根拠がない間違い」だとして、世論誘導をしようと狙っているふしがある。実際に財務省の主張をコピペしているような一部のマスコミでは、MMTとそのほかを一緒くたにして批判的な論調を展開しているところもある。財務省とすれば、まさにMMTは願ってもない反緊縮政策つぶしの素材だろう。