一方、著名な消費者行動研究者、ジャコビー教授は、74年の実験で、消費者はブランド選択に際して情報量が増大すると、自分の選択への満足が高まり、選択の確からしさが増し、混乱することが減るというベネフィットがあると結論しました。
しかしその一方で、選択肢が多すぎると自分にとってのベストなブランドを選択することができなくなり、機能不全に陥るという興味深い結論も得ました。つまり、一定程度選択肢が多い、という一種情報過剰な状況で、消費者は選択肢があるということに満足を覚えるのですが、選択肢が多すぎる状況ではむしろ不満足が高まることになります。
満足化戦略を用いる
情報過剰と消費者満足については、「満足化」(satisficing)という理論があります。満足化は、ノーベル賞を受賞した唯一の経営学者サイモン教授が考案した考え方です。
意思決定において、人間は効用の最大化や決定の最適化を目指してベストな選択肢を選択する、という伝統的な考え方がありました。これに対して、情報探索能力や理解力などの認知的資源が限定されている人間は、限られた時間内に選択するために、とりあえずベターな選択を決定して、もし結果が悪ければ修正すればよい、という戦略を用いるのです。
つまり、人間はベストなチョイスを常に望むわけではなく、限られた認知資源を用いて、その範囲でとりあえずベターなチョイスを選んでおり、そうしたやり方に特に不満は抱かない、ということなのです。
このことは、検索エンジンを用いる場合を考えればよくわかります。多くの人がサーチの結果、何百ページも表示されるとしても、最初の1~2ページまでくらいしか閲覧しません。これは時間や忍耐力が限られているため、とりあえず得られた情報で満足するという満足化の一例です。そしてこの満足化こそが、情報爆発や情報過剰に対して、私たちが対処している重要な戦略ということになるのです。
現代においてはすでに多くの消費者がそうしているように、まず検索エンジンを用いて、どこに自分が探したい情報があるかを探ります。さらに、まとめサイトやキュレーションサイト、ニュースサイトの編集上の工夫によって、自分が得たい情報が効率的に届けられるようなことも起こっています。こうしたことも加わって、私たちは幸いにして、環境が情報過剰であったとしても、そこから「被害」を受けることをまぬがれていることになります。