本稿のポイントを以下に整理します。
(1)インターネットによって情報過剰や情報爆発がもたらされているとは、「情報流通インデックス」のデータからは主張できない。
(2)情報過剰という現象が仮にあるとしても、それは新しい現象ではなく、すでにかなり以前から起こっていた可能性がある。情報過剰それ自体に現代の消費者が悩んでいるとは言えない。
(3)私たちは情報過剰に依存してしまう場合もある一方で、情報過剰に対処する術を身につけており、過剰な情報をやり過ごす術を知っている。また、私たちは、少しばかり「いい加減」な選択をしていても、結果によって修正する戦略を用いながら生活をしている。
では、マーケターはこうした状況に対してどう対処すればよいのでしょうか。
有力な解決法とは、消費者が選択する限られた情報のなかに入っていくことです。つまり消費者は限られた情報としか付き合わないのですが、我々が提供する情報がそこに含まれることが重要になります。今さらいうまでもなく、サーチエンジン最適化などは重要な手段のひとつなのですが、それだけでは不足です。有効なアプローチとは、消費者が欲しがるであろう情報を先取りして提供することです。
例として、「季節」があります。日本人は季節ごとに祭りを催したり、季節の変わり目に新しい衣服を購入するなど、季節の変わり目を意識した消費行動を行っています。季節は毎年定期的に必ず起る消費情報の特異点でもあるのです。花王では、梅雨入りの時期を見計らって、髪の悩みに対処する方法をスマホに「天気連動広告」というかたちで情報発信を行いました。これは、花王があらかじめ、インターネットでどのようなときに髪に関する検索や発言が増加するかを突き止め、さらに、そうした髪についての発言がどのような文脈でなされたかをテキストマイニングして理解していたからです。
もうひとつの例として、昭文社「ことりっぷ」があります。この観光ガイドブックでは、20~30代の女性がどのような旅行情報を欲するか、2泊3日の旅行を想定して、本当に必要な情報を的確に提供することで、ガイドブックには珍しい長期的なヒットとなっています。それまでの観光ガイドブックはできるだけ多くの情報をあらゆる読者に届けるという競争をしていました。ことりっぷはそのような情報のムダを削減して、消費者の情報消費スタイルに合ったフォーマットを確立しました。