日本、雇用の喪失が急加速…失業者の受け皿消失、「おもてなし」はスキルではない
このような近年の産業構造の複雑・高度化によって、1941年に発表されたペティ=クラークの法則の分類の妥当性について疑義が呈されるのは当然だが、本稿ではそこには踏み込まない。
ペティ=クラークの法則に従えば、現在の第三次産業の拡大は順調に産業構造と社会が進歩した証であるわけだが、雇用吸収という観点では、要はこれまで第三次産業が第二次産業の失業者吸収のブラックホールのような存在であったといえるわけである。
それを主に担ったのは第三次産業のなかの飲食、小売、宿泊といった顧客との対面を前提とする「狭義のサービス業」という労働集約的な産業であったことは間違いなかろう。対面であるので、製造・加工にかかわるルーティーン作業に従事していた第二次産業の労働者よりは、グローバル化の影響は大きく受けなかった領域であることは事実であり、それゆえに失業者の受け皿になったわけである。
サービス業の生産性と賃金が上がらない構造
では、この対面サービスを基本とする狭義のサービス業は、これまでと同様にICTの革新的進歩によって職を失うであろう広範囲にわたる労働者のブラックホール的な受け皿になれるのであろうか。
昨今は、対面接客業を中心に、日本の誇る「おもてなし」として大いに持ち上げる論調があるが、「おもてなし」とは無償であり、日本人が文化的に有する自発的な心性・態度とされ、スキルとはいえない。少なくとも高度なスキルとはいえまい。
欧米、特に米国では、サービススキルは金銭的な対価に直接跳ね返るチップ制度が存在し、チップはサービス提供者の給料の一部であるという社会的合意のもとに成立している。日本の消費者は「おもてなし」が有料であっても、それを望むであろうか。対面接客の「おもてなし」で高い付加価値を実現し、その対価を取れるケースは有名な高級旅館などに限定される。
対人接客を前提とする狭義のサービス業は、基本的に高度なスキルを必要としない極度の労働集約的な産業であり、それゆえにその産業が成長している限り、ブラックホールのように失業者を受け入れてきたため、生産性と賃金は上がらない構造になっている。
しかし、現在狭義のサービス業は、成長しない経済と加速化する少子超高齢化のなかで、市場縮小とコスト競争に直面している。65歳以下の人口が減少し、75歳以上の後期高齢者が急速に増えていく日本社会では、消費そのものが減じるので、労働集約的な対面接客である狭義のサービス業の需要は減ると考えられる。インバウンド消費でこれを埋められると考えるのは、楽観にすぎるのではないか。