加えて、市場参加者はニコンの半導体製造装置事業への不安も募らせてきた。ニコンは1台50億円程度する半導体装置(ArF液浸)の販売台数を増やし、収益を拡大しようとしてきた。
しかし、過去5年間のArF液浸の販売は、思うようには伸びなかった。これは、ニコンの営業戦略とその戦術が、市場動向を的確に反映せずに進められたことによるといっても過言ではない。ArF液浸の売上台数が1台違うだけで、同社の売上高や営業利益は大きく違う。それだけに、ニコンの経営に懸念を抱く市場参加者が増えたことは無理もない。
明確な筋道が見えにくいニコンの経営戦略
デジタルカメラ市場の急速かつ大規模な縮小や、半導体装置の販売が芳しくない状況を受けて、ニコンの経営戦略は迷走してきたように見える。それは、同社が環境の変化に適応できてこなかったと言い換えられる。同社の中期経営計画が短期間で修正されたことは、戦略の迷走と呼ぶべきだろう。
2015年5月、同社は映像、半導体装置、FPD装置に、メディカル、マイクロスコープ(生物顕微鏡などを扱う事業)、産業機器の3つの戦略分野を加えた6つの事業ポートフォリオによる成長を目指す中期経営計画を発表した。この計画は3年間固定された。ニコンは新事業の育成を通した“攻め”の経営にコミットしたといえる。
この中期経営計画が公表された時点で、ニコンはデジタルカメラ市場の縮小により映像事業の収益下方リスクが高まっていることを認識していた。加えてニコンは、ArF液浸露光装置のシェア拡⼤に時間がかかることも認識していた。
本来、新事業の育成を進めるためには、既存事業から安定して収益が獲得されていなければならない。それが、経営資源の再配分を通した成長基盤の強化を支える。しかし、ニコンの場合、既存事業の収益下振れの懸念を抑えないままに、新しい事業に手を付けてしまった。
こうしたケースでは中期経営計画が行き詰まることが多い。実際、ニコンの半導体装置事業では黒字化が達成できず、デジタルカメラ市場は同社の想定を上回るマグニチュードで縮小し続けた。
2016年11月、ニコンは構造改革の実施を発表し、従来の中期経営計画を取り下げた。2017年3月期から2019年3月期を同社は「構造改革期間」と定めた。そのなかで同社は、ArF液浸露光装置の開発を縮小し、高付加価値の映像製品の強化に経営資源を再配分する方針を掲げた。
2019年3月期の第3四半期、ニコンは増益を確保した。これは独蘭企業からの和解金支払いに支えられた。本業の収益は減少傾向をたどっている。