●手持ちのイヤフォンでも良い音になる?
手持ちのイヤフォンでも、可能な限り良い音で聴きたいと考えている人も多いようだ。3月初旬に、Twitterや匿名インターネット掲示板・2ちゃんねるで「シュアがけ」という言葉がよく見られた。この単語を聞いたことがなくても、イヤフォンを逆さまにして耳に挿入し、ケーブルを耳の上から後ろへかける画像を見たことがある人も多いのではないだろうか。
「シュアがけ」とは、イヤフォンメーカーのシュアが自社製カナル型【編註:耳の穴の中にねじ込むタイプ】イヤフォンの利用方法として推奨しているものだ。イヤフォン本体に入ったロゴは、ケーブルが上向き使用を前提としてプリントしており、ケーブルのロゴも背中側に回した時に見えるようになっている。
もちろん、シュアの製品に限った使用法ではなく、音楽業界では昔からある使い方で、ケーブルがぶらつかないため、ケーブルがこすれることで発生するタッチノイズが軽減されるなどの効果もある。ただし、一部のイヤフォンでは、この使い方をするとフィット感が損なわれる場合もあり、必ずしも音質が良くなるというものでもない。
しかし、これを「正しい」使い方だと誤認している人もいる。3月に開催されたフィギュアスケートの世界選手権で、羽生結弦選手がこの装着方法をしている姿が画面に映った際、ネット上の一部で注目され、「Twitterで見た、音が良くなるかけ方」「正しいかけ方」との書き込みが見られるなど、ちょっとした話題になった。
話題に乗っかっている人がみなオーディオや高級イヤフォンに興味を持っているわけではないだろう。しかしそうした人でも、イヤフォンでより良い音を楽しみたい、良い音になる方法があるのならば知りたい、と思っているらしいことがうかがえるエピソードだ。
●オーディオ機器からアクセサリに
カナル型イヤフォンは、流行して久しい。採用している素材や構造にもよるが、よくフィットするものでは、耳栓のように多くの外部の音を遮断し、好みの音楽だけを聴けるようになるイヤフォンも存在する。さらに外部から入ってくる音を打ち消す「ノイズキャンセリング機能」を搭載しているタイプなど、外部音を積極的にカットしてくれる製品もある。
仕事中や勉強中に、そうした耳栓効果を狙ってイヤフォンを使って音楽を聴いている人や、話しかけないでほしいというアピールとして使用している人もいるようだ。有線ラジオ放送最大手・USENの調査によれば、仕事中にイヤフォンを利用している人は20%程度いるという。
そこで、あえて音楽を聴くことを目的としないイヤフォンを製品化したのが、キングジムの「デジタル耳せん」だ。いわばノイズキャンセリング機能だけを搭載したもので、呼びかけなど人の声は聞こえるが環境音等の雑音はカットしてくれる。音楽を聴く機能は搭載されていない。この製品が話題になったことからも、音楽を楽しむため以外の目的でイヤフォンを利用している人は、少なくないのだろうと考えられる。
イヤフォンは、すっかりオーディオ機器からスマホアクセサリへと立場を変え、家電量販店でもオーディオコーナーではなく、スマホ売り場近くのアクセサリコーナーへと陳列棚を移動している店舗が多い。
今までは高級なイヤフォンに興味があっても、やや敷居が高いと感じる人も多かったようだが、気軽に試聴できるようになるなど、買いやすくなったといえる。一方で、純正の付属品やごく安価なものを利用している層が半数近くにも上ることから、今後は特徴的な性能やデザインで、この層に訴求することが成長のカギとなるだろう。
(文=エースラッシュ)