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笹子トンネル事故、7年前から危険認識しつつ放置…検察、会社側を不起訴で刑事責任問わず

文=明石昇二郎/ルポライター

検察審査会は「現場社員」の責任だけを重視

 検察審査会では、くじで選ばれた11人の市民からなる検察審査員たちが、不起訴処分とされた事件の検証作業に当たる。甲府検審では山梨県民から審査員が選ばれ、およそ1年にわたって審査していた。

 今年7月23日、甲府検審が議決をする(議決書の公表は2019年8月1日)。事故発生当時、点検や保全の業務に当たっていたNEXCO中日本の職員S氏と、子会社「中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京」の職員M氏の2名に対し、「不起訴処分は不当である」とした。被疑者M氏は、事故が発生するまで中央自動車道の詳細点検業務に従事し、「簡略化した方法でトンネルを点検する」ことをNEXCO中日本側に提案した人物である。もう一人の被疑者S氏は、「笹子トンネルリフレッシュ計画」の検討作業にも関わっており、「簡略化した方法でトンネルを点検する」ことをNEXCO中日本として了承した人物だ。簡略化した点検方法とはすなわち、手抜きである。

 検察審査会の議決では、事故ではなく「事件」と呼ぶ。そしてこの事件では、天井板が落下する可能性があることを予め認識できたか(予見可能性)についてと、手抜きをせずに安全点検を行なっていれば事故を避けられたかどうか(結果回避可能性)について、審査する。甲府検察審査会の議決では、S氏とM氏には「予見可能性が認められる可能性がある」として、甲府地検に対し、再捜査を命じていた。

 しかし、その他の幹部たち8人については「予見可能性は認められない」との理由で、「不起訴が相当である」とした。現在の日本では、刑事訴追されそうになった経営陣が、「まさか天井板が落ちるとは思いませんでした」「天井板の危険には気づきませんでした」などと主張した場合、無能であることを罰する類いの法律は存在しないため、罰することができない。結局のところ甲府検審の議決では、いわゆる「現場の社員」の責任だけを重視していた。

 しかし、S氏とM氏がトンネルの点検で手抜きを実行した背景には、経営陣からの指示や圧力は何もなかったのだろうか。「現場」の独断で手抜きをすることなど、現実にあり得るのだろうか。

 この疑問について尋ねようと、今回の甲府検審議決で審査補助員を務めた弁護士に話を聞こうとしたところ、当該弁護士事務所の職員に、「検察審査会に問い合わせてほしい。直接の取材には応じられない」と阻まれる。そこで、甲府検察審査会の議決では考慮されていなかった点について、検討してみることにした。

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