「社内では『万が一クロでも、日本では特例を除き民間対民間の金銭授受は違法とされていないので、竹田会長がフランスに行くことがない限り、身柄を拘束されることはない』という見方が強かった。そのため今回の報道を受けて『また新しい火種か』と社内には動揺が走りましたね。スポーツ関連のマーケティング、特に五輪は規模があまりにも大きく、関与している人間の数が膨大で何がどうなっているのかわかりません。仏当局が今後、どこから突っ込んでくるのか不安です。五輪開催までに新たなスキャンダルが公にならなければいいのですが」
悲願の五輪開催には実弾が必要
電通は今回の東京五輪で各種マーケティング代理店を通じ、日本国内のスポンサーから約3300億円の協賛金を集めている。そんなビックビジネスだからこそ、電通にとって五輪招致は悲願だった。
「1988年の名古屋五輪構想と2008年の大阪五輪構想の敗因を電通は綿密に分析したようです。その結果、誘致の投票で票を得るのにはスポーツ界で影響がある人物と確実にコネクションをつくり、場合によっては実弾(金)が必要であることを学んだのではないでしょうか」
こう指摘するのは、東京五輪と電通利権に関して「電通巨大利権~東京五輪で搾取される国民」(サイゾー)を上梓している作家の本間龍氏だ。
本間氏はロイターの報道を踏まえ、次のように語る。
「フランス当局の捜査が五輪から国際陸連まで及んだことで、事件の全容解明が二次元から立体的なものになってきています。その中で、電通の関与が具体性を帯びて浮かび上がってきている。電通が得意とするのは影響力のある人と人、人と金をつなぐコネクションづくりです。国際陸連の例を見てわかるように、『そういうコネクションを長年かけて構築し、適切なタイミングでセッティングしたのは誰なのか』というのが今回の事件を解明する重要なポイントです」
「そして五輪の件で言えば、薦められるまま契約を承認してしまった竹田前会長自身の責任もさることながら、そもそも彼にパパマッサタ氏とつながるシンガポールのコンサル会社をおぜん立てしたのが誰なのかという話です」
フランスと日本では法律が異なるため、日本では関係者の逮捕や強制捜査が行われることはないようだ。だが、今後もフランス当局から報道機関へのリークが頻繁に行われることは想像に難しくない。「電通そして日本が汚い手段で五輪開催を進めた」という悪いイメージは当面、ぬぐえそうにない。
ロイターの報道の事実確認と社としての意見を電通に文書で問い合わせたところ、電通広報部からは次のように回答があった。
「お問い合わせの件ですが、意見等は差し控えさせていただきます」
晴れの舞台のオリンピックに立ち込める暗雲が晴れる日は訪れるのだろうか。
(文=編集部)