またFacebook上の「友達」も公開設定なので、交流関係もすべて丸わかりだ。なお、この潜水艦乗員の友達の中には「潜水艦勤務」と記載している者、最近まで潜水艦の先任伍長(下士官の総元締め)をしており、現在は、呉の潜水隊の隊庶務という陸上勤務をしている者なども含まれている。
加えて、この「友達」をたどっていくと、海上自衛隊の潜水艦乗り下士官たちの総元締めである「潜水艦隊先任伍長」とプロフィール上に書き込んでいる者もいた。
●潜水艦の運航情報までカンタン入手
この潜水艦乗員A氏の投稿によると、搭乗する潜水艦は、今年6月22日時点では兵庫県・神戸市におり、その後、7月に広島県・呉に入港。また、Facebook友達による書き込みから、この乗員が乗り組んでいる潜水艦の母港は呉であることはほぼ確実だ。
そうすると広島県・呉市に司令部を置く、第1潜水隊群所属の第1・第3・第5潜水隊に属する潜水艦のうちの1隻であることは間違いない。
そして今年9月3日には、鹿児島に入港したとする冒頭の写真が、リアルタイムで掲載された。
自衛隊鹿児島地方協力本部のHPによると、今年9月3日から同7日まで鹿児島港沖で潜水艦の出入港予定が記されている。よって、この潜水艦乗員が乗り組んでいる潜水艦の写真は「B」であることが判別できる。
「B」が配備されているのは、第1潜水隊の3隻、もしくは第3潜水隊の1隻だ。このうちのどれか1隻であることも読み解けてしまう。
他方、Googleで検索すると、A氏がYouTubeに今年9月7日鹿児島を出港する潜水艦の様子をアップしている。これを見ると代将旗もしくは隊司令旗と思われる旗がマスト上に掲揚されているようにも見える。そうすると、第1潜水隊群司令をはじめとする司令(1等海佐)クラスが乗艦していることもまたわかる。
●対策は後手に
筆者が偶然見つけた潜水艦乗員の名札から、重要な防衛機密であるはずの潜水艦の行動、乗員の交友関係、情報セキュリティの意識なども、ここまでわかってしまうのだ。
もし筆者が、この潜水艦乗員を「知っている」と称して、神戸の造船所付近を歩いている潜水艦乗員に近づき、なにがしかのとっかかりを見つけて、潜水艦乗員と知り合いになり、さまざまな情報を聞き出せてしまう。
小中学校のほうが、情報セキュリティに関する意識はよほどしっかりしている。なぜここまで日本の防衛情報は“オープン”なのか?
「海上自衛隊でも、上層部、とりわけ年配の高級幹部は危機感を抱いている。しかし年配の下士官クラスの中には、まだまだ情報セキュリティへの意識が薄い者も多い。問題を把握はしているが、具体的対策はなんら講じられていない。組織が大きすぎるので、問題を把握し、対策を講じるにも時間がかかる」(現役海上自衛隊幹部B氏)
ようやく重い腰を上げ、この種の問題の対策に取り組んだとき、海上自衛隊に関する情報は、すでに諸外国やテロ組織によって丸裸にされた後なのかもしれない。
(文=陳桂華/ITライター)