わざと空席つくる談合疑惑
T社が一次審査で受託中の2施設ともに「資格なし」とされた昨年の指定管理者選考会において、もうひとつ驚いた出来事があった。
それは、指定管理者が募集された9施設のうち、ある1施設には、1社の応募もなかったことである。正確にいえば、1社のみ応募はあったものの、その会社が一次審査で失格となったために、完全空席で「応募なし」の扱いとなり、その施設のみ、また再度ゼロから指定管理者の募集がかけられる異例の事態になった。
応募なしだった問題の施設は従来、Y社が別のNPO法人との共同企業体(JV)として指定管理者となっていたから、これまで通りそのJVで再度応募してくると誰もが考えていた。しかしどういうわけか、この施設には応募せずY社単独でT社が受託している施設に応募したのだ。その後、結果的には再募集をかけられた施設は、JVが指定管理者に選定された。
ちなみに、もうひとつT社が指定管理者となっていた施設については、G社しか応募がなかったため、自動的にG社に決定。この会社は数年前、館長雇い止め事件を起こしており、そのときも区からはなんのお咎めもなしだったうえ、今回はT社の失態によって漁夫の利のごとく受託できたのだから、きっと笑いが止まらないだろう。
誰が図書館を殺すのか
以上のような経過により、不祥事を起こした地元金属加工業のT社が退場した後、ガソリンスタンド運営のY社、バス修理業のG社、そしてスイミングスクール運営のM社の地元3社によって、足立区内の図書館併設センターを分け合う体制に変わった。
4社とも、本業はまったくの異業種からの参入だが、指定管理者制度が始まる以前の一部委託の時代から、図書館等の現場に人材を派遣(形式は請負だが)してきた業者たちだ。
善意に受け取れば、その時代に図書館等の運営ノウハウをみっちり培ってきたともいえるが、正社員をほとんど雇用してこなかった彼らが、どうやってノウハウを毎年蓄積していったのか、大いに疑問が残るところである。
公共図書館に求められている社会教育機関としての使命について、指定管理者となったこれら民間事業者の経営者がどれほど深い見識と高い関心を抱いているのかも、はなはだ心もとない。
一方で、低賃金のうえ、いつ切られるかわからない不安定な状態のなかでも誠実に働いている、図書館司書の人たちの個人的ながんばりを「民間委託の成果」と偽る役所のほうが、もしかしたら罪は深いのかもしれない。
人件費を低く抑えた分が、そっくりそのまま事業者の利益になるだけの民間委託は「無料貸本屋」はつくれても、地域の文化を育む公共図書館づくりは、どだい無理な話だと思うのは、果たして筆者だけだろうか。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)