先進国の人々もコスト増から逃れられない。ただでさえ鈍い経済成長にブレーキがかかるだけでなく、税負担もある。日本政府は化石燃料の需要を抑制するため、「炭素税」の導入を検討中だ。
ところが環境活動家はこれらのコストに口を閉ざしたままだ。政策に伴う多大なコストが知れ渡れば、政治的な支持を得られなくなってしまう。フランスで燃料税の引き上げをきっかけに国民の怒りに火がつき、反政府の「黄色いベスト」運動が広がったことは記憶に新しい。
そこで環境活動家は冷静なメリットとコストの比較を避け、グレタさんのように「私たちは、大量絶滅の始まりにいるのです」と恐怖心を煽り、感情に訴える。政治的に巧妙な手法といえる。けれどもその結果、過剰な温暖化対策が実現し、経済の発展が阻まれれば、甚大なコストは世界の貧しい大人や子供に一番重くのしかかる。
グレタさんら12カ国の少年少女16人は、国連子どもの権利委員会に「気候危機は子どもたちの権利の危機だ」と訴え、救済を申し立てた。アルゼンチン、ブラジル、ドイツ、フランス、トルコの5カ国に対し、気候危機に関する法律や政策を見直し、最大限の努力をするよう要請している。
先進国であるドイツやフランスはまだしも、決して豊かとは言えないブラジルやトルコにまで厳しい温暖化対策を課し、その結果として経済成長を阻害するのは、あまりに過酷というものだろう。
グレタさんは国連での演説で、温暖化で環境が破壊されれば、「その結果と生きていかなくてはいけないのは私たちなのです」と述べた。しかし温暖化のリスクは、温暖化政策で経済が破壊されるリスクと冷静に比較しなければならない。温暖化は少なくともこれまで人類を殺しはしなかった。経済成長を否定する温暖化対策こそ、子供を含む世界の人々の命を危うくしかねない。
(文=木村貴/経済ジャーナリスト)