2004年以降、草案作成のための議論が行われてきた遺産税について、「近く、深セン市で試験導入される」という情報がインターネット上で駆けめぐったのは今年7月のこと。この時、深セン市地税局(地方税務署に相当)は、即座にこの情報を否定している。ところが9月下旬、再び「16年に深セン市を皮切りに、遺産税の徴税が開始される」という情報がネット上で流布。今度は同地税局に加え、深セン市の財政委員会も「情報はデマ」とアナウンスしたが、「火のないところに煙は立たぬ」とばかりに、人々の間で大きな話題となっている。
すでに公表されている遺産税の草案の内容が、かなり過酷な内容であることも人々の関心に拍車をかけている。
10年に改定された遺産税の最新の草案では、課税対象となるのは相続資産の総額が80万元(約1560万円)以上の相続人で、13.75~50%までの累進課税方式とするとされている。ここまでは、日本の相続税率と比べても、特別高いものではない。
相続は極めて困難
しかし、遺産税納付に関する数々の但し書きを見れば、事実上遺産相続を認めないにも等しい過酷な内容となっている。一部を意訳して紹介する。
(1)税金は、相続人が合法に得た収入で納めなくてはならない。親族の財産や贈与に頼って支払ってはならない
「合法的に得た収入」とは、犯罪などで得た収入ではないことに加え、所得税その他を納付した「税務上クリアな収入」を意味している。富裕層では、灰色収入が全体収入の4割以上を占めるともいわれており、会社経営者や自営業者で所得税を満額払っている人は皆無といってよい。さらに、親族にも頼れないとなると、支払い能力のある相続人はかなり限られることになる。
(2)納税前の遺産は凍結される
先払いしなければ遺産相続ができず、相続する不動産や非金融資産を売却して納税資金に充てることも不可能。
(3)納付は3カ月以内に現金で行う。納付されない場合、遺産は国家に没収される
日本では最大20年までの延納が認められているが、中国では家族の死に際し、悲しみに暮れる暇もなく、金策に走らなければならない。