小池包囲網
IOCのコーツ調整委員長や政府、東京都関係者の話を総合すると、バッハ会長の発表までの動きは以下のようなものだった。
酷暑のドーハ(カタール)で10月6日まで行われた世界陸上のマラソンで多数の棄権者が出たため、IOCで東京五輪のマラソン・競歩会場の移転計画が浮上。8日までにはIOCから組織委に札幌案の連絡が入ったとみられる。というのも、10日に予定されていた五輪チケットの2次抽選販売についての記者会見を、組織委は8日、延期すると急遽発表しているのだ。9日には、森会長が首相官邸に出向き、安倍晋三首相に事情を説明。森会長は10日には橋本五輪相と秋元札幌市長と3人で会談している。
「札幌市は、小池知事が札幌案を知った15日には、すでに『喜んで受け入れる』という内容のコメントを準備していた」(組織委関係者)
「東京都への連絡が遅れたことについて、森会長は『IOCから、混乱するから東京都にはまだ話さず、最後に話すようにと言われた』と弁明していますが、森会長の個人的な“小池嫌い”が影響しているのは間違いない。日本新党の国会議員として初当選した小池さんが自民党に移った後、森さんは自分の派閥(清和会)に小池さんを受け入れて面倒をみてきた。しかし小池さんは、2008年の総裁選に森さんの制止を振り切って出馬。それ以来、森さんは『あいつは永遠に許さない』と恨んでいる」(清和会関係者)
その後、小池包囲網は広まり、札幌市や北海道からは「移転費用は従来通り組織委と東京都が負担するものだ」とすら言われた。IOCも「予備費を充てるべき」と東京都の負担に言及。これには都議会で小池知事与党の「都民ファーストの会」が札幌開催なら費用が340億円超になるとの試算を発表して抵抗した。
来年の都知事選、小池氏が有利か
こうした事実が徐々に明るみになると、都民の反発も強まった。小池知事も必死で巻き返し、10月25日の定例会見で、「都民からはマラソンや競歩を東京で見たいとの声をいただいており、思いを受け止めなければならない」と主張。都庁に寄せられた電話やメールの約9割は「札幌開催に反対するもの」だったという。