この関税撤廃時期の繰り上げ協議は、締約国の要請があれば協議に応じなければならないことになる。それも、TPP協定発足後、直ちに適用されることになるので、7年後再協議規定とは違って、TPP協定が発足すれば締約国の要請にもとづいて発足した年から協議が行われることになる。
この関税撤廃時期の繰り上げ協議は、日本にとって重大な規定になりうる。というのも、日本は関税撤廃農産物の多くについて撤廃時期を長めにとっているからである。
【各品目の関税撤廃時期(例)】
・豚肉、豚くず肉:10年
・牛くず肉:16年
・鶏肉(丸どり、生鮮・冷蔵):6年
・鶏肉(丸どり、冷凍):11年
・フローズンヨーグルト:11年
・たまねぎ、馬鈴薯、冷凍馬鈴薯、冷凍ブロッコリー、れんこん、ごぼう、かんしょ、生鮮オレンジ、さくらんぼ、グレープフルーツ:6年
・生鮮バナナ、パイナップル、りんご、かにピラフ、えびピラフ、いかめし、ブドウ糖、オレンジジュース、りんごジュース、トマトケチャップ:11年
これらはほんの一部であるが、それぞれの産地では関税撤廃まで猶予があると受け止めている向きもある。しかし、米国をはじめTPP参加国から早期の関税撤廃を求める動きが強まれば、この協議規定に基づき前倒しで関税撤廃に追い込まれる可能性があるのである。
米国多国籍企業が利益を上げやすい環境
TPPは2005年にNZ、シンガポール、チリ、ブルネイの4カ国で始まった自由貿易協定、通称P4協定がその出発点であった。P4協定は、関税と非関税障壁の撤廃をその目標とするという点で、他の自由貿易協定と比して異色な自由貿易協定であった。
これに目をつけたのが、米国の多国籍企業とそれに支援された米国政府であった。関税撤廃の自由貿易協定を世界標準にすれば、多国籍企業にとって理想的な経営環境が確立するからである。そして、P4協定のバージョンアップの際に米国政府も加入し、新たなTPP協定策定のためのTPP交渉を開始したのである。出発点から徹頭徹尾、多国籍企業がより利潤を上げる経営環境を確立するための貿易協定なのである。
そして今回TPP交渉が大筋合意をしたが、その合意文書のひとつ「環太平洋パートナーシップ協定の概要(暫定版)(仮訳)」を見てみると、次のようにTPPの意義を明記している。