香港警察トップは中国共産党指導部の忠犬
特に警察の無差別な攻撃に市民の批判が集中したわけだが、そのような警察トップの素性はあまり知られていない。それは鄧炳強氏で、1965年7月4日生まれの54歲。父母は中国広東省の出身だが、鄧氏自身は香港生まれ香港育ちの生粋の香港人。出身大学は皮肉にも2300発もの催涙弾が投じられた香港中文大で、母校の後輩らを催涙弾やゴム弾で攻撃し、キャンパスから引きずり出して殴打して逮捕するという蛮行を命令した張本人なのだ。
このような非情な命令を下せるのも、もともと鄧氏は権力志向が強かったことが挙げられる。公務員試験ではトップクラスで合格し、香港が英領植民地だった97年以前には最優秀の警察官僚しか選抜されない英国国立国防学院への留学が認められたほか、米連邦捜査局(FBI)の研修生にも選ばれた。香港が中国に返還された97年以後、中国共産党の幹部養成機関である中央党校や中国浦東幹部学院、中国の警察大学校に当たる中国人民公安大学にも留学・研修が許されている。
これらの経歴から鄧氏は香港警察のエリート中のエリートであり、香港警察の期待の星で、警察トップになるべくしてなった人物なのだ。それはとりもなおさず、中国共産党指導部に尻尾を振る忠犬といっても過言ではない。
このような華麗な経歴を持つ鄧氏に、中国を強く批判する学生ら若者に寛容な対応を取ることを期待するのは難しい。今後も香港警察は過剰な暴力行為を繰り返すことになろうが、その結果、今回の選挙結果に表れたように、香港人の中国離れ、中国嫌いが進み、最終的に香港は大陸からの移民で埋め尽くられ、香港人は台湾やシンガポール、あるいはオーストラリア、カナダなどに移住して、「そして、生粋の香港人は誰もいなくなった」という結果になることが十分に考えられるのである。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)